幸せは足元から崩れる

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「ちゃんと調べてもらったほうがいい!」 隣の市に住んでいる義母は毎日の様に電話をして来て、ある日、そう言った。 まだ二年、という私にもし不妊なら治療には時間が掛かるからはっきりさせるなら早い方がいいと、そっちに良い病院があったからと言われてしまった。 夫の倉田(くらた)宗春(むねはる)に話すと、行けば納得するだろ、と一緒に行ってくれる事になって、二人で検査を受けた。 結果は二人ともに異常なし、ただハルさんの数が少し少なめと活動の元気がなさげ。 アルコール摂取や風邪を引いた後、疲れている時など体調でそんな風になる事もあるらしく、それほど気にする数値ではないと言われた。 そういう時にこそ、精の付く物を食べて頑張って、と一応の太鼓判をもらった。 レスじゃないけど回数は努力しているとはいえない回数。 疲れて帰ったハルさんに、鰻だのレバーだの牡蠣だのを強制的に食べさせてするのも違う気がして、余り無理はさせない様にしていた。 だから努力が足りないのか、それからも子供は出来なかった。 出来ないから義母からの電話は週に一度、ハルさんがいない昼間に掛かって来て、子供の必要性、可愛さ、努力の仕方、夫婦の在り方、一時間程度は拘束されていた。 話す内容はいつも同じなのに…。 「おかえりー。」 マンションの3階に住んでいて、玄関が開くと音で気付いて廊下を早足で行き、笑顔で迎える。 「ただいま。」 疲れた顔をしていると見ると思うから、今日は止めようと言葉を飲み込む。 本当はお義母さんから電話があった、ハルさんから言ってくれないかな、と何度目かのお願いをしたかった。 電話するならハルさんがいる夜にして欲しい、ハルさんと話したいでしょうし、とこれは何度も直接言ったが、息子と話す事はないわよと言われた。 子供の事はプレッシャーになるから心配は嬉しいけど少し見守って欲しい、これは以前言ってくれた。 だけど「少し」は本当に「少し」だった。 僅か三ヶ月で電話はまた始まった。 それから義母は月に一度、訪ねてくる様になり、お昼を食べて散々話して帰って行く。 子供が出来れば義母は来ない、そんな考えが頭に浮かぶと毎日の様にハルさんを誘って、三か月も経つとハルさんに拒否られた。
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