幸せは足元から崩れる

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立夏(りっか)、誕生日おめでとう!」 花束とネックレスの入った箱をハルさんが差し出してくれた。 「ありがとう!綺麗、どっちも嬉しい。」 「25歳だね。」 「30まであっという間だよね。」 「何言ってるの、まだあるし、全然、若いって!」 食べようとハルさんが言い、2人で食事を始めて、ハルさんに話したいと声をかけた。 「食べながらでいいの。聞いて欲しい。」 「うん。」 「なんか最近、ギクシャクしてたと思う。」 「…………。」 「ハルさんを責める気はない。だけどあの日、子供の為に必死になってて普通にしようと言われた日、覚えてる?」 「…うん。」 この日の為に時間を掛けて作ったタンシチューを口に入れて、少ししてから私はまた話し始める。 「こんなにしてるのに出来ない、言われて悲しかった。だけどそれは事実で仕方がないとも思えた。もっと悲しかったのは、気不味くてお風呂に行ったと思うけど、戻って来たハルさんが何もなかったみたいにベッドに入って寝てしまった事。私は泣いているのにハルさんにはどうでもいいんだって思ったら、信頼とか安心とかハルさんに対して持てなくなる気がした。それで距離が出来た気がしたの。」 カチャと、ハルさんが目の前でお皿にスプーンを置いた。 「……ごめん。戻って来て泣いているのを見て、子供が出来ない事で泣いているんだと思った。触れたらしようって言われる気がして今はソッとしておこうって……そのまま………ごめんね。」 「ハルさんは優しいからお義母さんに強く言えないのは分かってる。でもね、その優しさの陰で私は泣いてるの。心は傷付いてる。言い難いのも分かる。だったらせめて…私の気持ちを考えてもう少し電話とか控えてもらえる様にとか、ハルさんが対応を進んでするとか考えてもらえないかな?」 「うん…俺のスマホに連絡する様に、家に掛けない様に話しておく。母さん、悪気はないから…だから流しておけばいいと思ってた。俺は立夏(りっか)が大事だよ?誰よりも何よりも大事で愛してるから…それは本当だから。」 泣きそうな顔で前のめりになってハルさんに言われた。 必死な顔でこんなハルさんを見るのは結婚前のプロポーズ以来だと思った。 やり直せる、この時はそう思ったんだ。 子供が出来ても出来なくても、ゆっくり夫婦をやり直そう、2人でそう話し合ったんだ。幸せ…だったんだ。
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