森の中の魔女の家

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森の中の魔女の家

 その家からは毎日のように良い香りが漂っていた。  なんの香りかは日によって違う。クッキーの焼ける香ばしい香りだったりシチューの煮えるまろやかで優しい香りだったり。  ときには苦い香りが漂うこともあるけれど。そういうときは大概、薬草が大鍋で煮られているのであった。  街外れの森。  奥のほうはうっそうと樹々に覆われているが森の入り口はそうでもない。森に入って五分も歩いた森の中ではまだ浅くて、樹々も少ない場所に小さな家が建っている。  そこには男の魔女が一人で暮らしていた。  魔女というのは女性を指すものではないのか、てっきり女性が出てくるものだと思った、とたまに驚かれるのだが、別段おかしなことではない。魔女というのはなにも『女性』という性を表す職業や立場ではないのだから。  確かにそこに住む魔女・ノアに魔女としての修行を叩き込んで一流にしてくれたのは祖母、つまり女性である。  魔女という職業が魔法使いと違う点は、魔女は不可思議な魔法を使うことはできないということだ。  生活に役立つ、火をつけたり水を操ったりという良い魔法であったり、逆に人々を惑わしたりする悪い魔法などの不思議な力は使えない。  それが、魔女という仕事に『魔女』という固定名がついている所以であった。
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