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第二章『未来の待ち人』
そんなことがあった数日後。
「じゃあ、すいやせん兄貴お先しやす」
「おう、気を付けてな」
「あっ、おいらもお先いいっすか?」
「あぁ、帰っていいぞ」
肥後はまだ書類整理が残っていたので、仕事を終えた上島と寺門は帰すことに。
市後は何か用事があるとかで定時になると同時に先に帰っていた。
「さっ、とっとと終わらせて俺も帰るか」
それから1時間程して作業を終えると相談所の戸締まりを確認して出入口に施錠する。
門を出ようとした所、門の柱に寄りかかっている人物が目に入った。
こんな時間に誰だ?
待ち合わせか?
肥後が歩いて近付いて行くと横顔が見えた。
「なんだ、若葉じゃねぇか。どうしてここに?」
待ち人は若葉。
「あっ、肥後君お疲れさま。知り合いにここの事知ってる人がいたから。それにしても、趣味相談所なんて面白いわね」
「あぁ、そうだろ?知り合いのガキ達のアイディアなんだけどな。ところで俺に何か用か?」
「うん、ちょっとね。ねぇ、これからご飯でも行かない?」
肥後が好きだった頃のあの笑顔だ。
あの頃に戻ってしまったような錯覚に陥ってしまう。
でも・・・
「悪ぃ。ちょっと予定あるんだ」
嘘だ。
予定なんて何もない。
しばしの沈黙。
「・・・そっか。残念だな。じゃあ、私帰るね」
一人去っていく若葉。
どのくらい自分のことを待っていてくれたのだろう。
それを思うとご飯ぐらい行った方がよかったのでは。
しかし、もし行っていたらまたあの頃に戻っていたような気がする。
何の根拠もない想像だが。
俺はヤクザから足を洗った時にそれまでの過去も全てリセットしてきた。
だから戻るわけにはいかない。
同じ過ちを繰り返さない為にも。
若葉のことは今日限りもう忘れよう。
そう決意した肥後が自宅に到着。
今は市後達と四人で一軒家を借りて同居している。
大家さんが趣味相談所の会員で安く貸してくれたのだ。
「ただいま」
玄関を開けて入るも反応なし。
中は電気もついておらず真っ暗。
みんなまだ帰ってきてないのか?
リビングに入り電気をつける。
パーン!
パパーン!
「うおっ!」
撃たれたのか!?と一瞬勘違いしてしまった。
昔の職業病だな。
「兄貴、誕生日おめでとう!」
「肥後さん、おめでとうございます!」
そこには市後組の連中に加えてナオ達や和真達の姿まで。
そうか。
今日は俺の誕生日だったのか。
そんなものすっかり忘れてたよ。
なにせ祝ってもらったこともほぼ無いしな。
「ささっ、兄貴。こちらへ」
上島と寺門がテーブルの方に促す。
そこには大きなケーキが。
真ん中に1本だけ大きなロウソクが刺さっている。
まさに人生をリセットした俺からしたら最初の誕生日にピッタリだ。
ここからまた俺の人生は始まるんだな。
その日俺を待っていたのは過去(元カノ)ではなく、未来(仲間達)へと繋がる沢山の明るい笑顔であった。
〈おわり〉
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