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39.【最終話】花言葉
朝目が覚めた僕は東郷の硬い腕に頭を乗せたままぼうっとしていた。すると東郷が言う。
「今日のランチ時間取れそうなんだが一緒にどこか行かないか?」
「え! ごめん、今麗華ちゃん日本に帰っててご飯行く約束しちゃった」
「あ? そうなのか……」
東郷はちょっと残念そうな顔をした。
「雅貴も行く? 多分良いって言うよ」
「あ、いや……俺はやめておく」
「なんで?」
「俺がいたら俺の悪口言いにくいだろ」
「あはは! たしかに~」
「そこは否定しないのか」
あの騒動から二ヶ月。
僕たちは東郷のマンションで一緒に暮らすようになっていた。
麗華は本当にあの後パリに移り住んで、日本の生花の技術を活かしたフラワーデザインをビジネスにしたいと奮闘している。
そして、帰国する度に僕たちは一緒に食事に行くのが楽しみになっていた。
僕は相変わらずクリニックで診察の日々だ。
東郷はもちろん会社の経営責任者として忙しくしている。
こうして一緒に暮らしてみて、本当に僕たちは相性が良かったんだと感じる。
予想した通り、セックスをしようがしまいが、触れ合っていさえすれば体調がずっと良い。セックス依存症だった僕がすっかりそんなことを忘れるくらい快適に生活できていた。
ただ東郷は、もっとしたいと思っているみたいだ。彼にとっては「スポーツジムのようなもの」なので。
でも、東郷のペースに合わせていたら僕の身体が持たない。
あの日六条の家に東郷が迎えに来てくれなかったら、僕はあの家でずっと飼われていたのだろうか。
僕が出ていって六条が大人しく引き下がるのか疑問だったが、東郷と健斗が二人で六条のことを調べてくれたお陰で、何も言ってはこなかった。
父は、東郷と健斗から事情を聞いてうなだれていた。
僕にもきちんと謝ってくれた。
後から聞いたことだが、僕の病気に良いかもしれないという理由で六条の申し出を受けたのだそうだ。父は父なりに、僕のことを考えてくれていたということだった。
僕は自分のことに精一杯で、他の人が向けてくれていた好意に気づいていなかっただけなのかもしれない。
これも最近知ったのだが、藤岡さんによると父は僕のクリニックを開業する前に僕以外のスタッフ全員と面談を行っていた。
息子と一緒に働く人間を見ておきたいからだと話していたそうだ。
藤岡さんは「西園寺さんのお父様って結構過保護なんですね」と言っていた。
そんなことは絶対ないと思うけど、僕は素直に嬉しかった。
あれこれと思いを巡らせていた僕に東郷が問いかけてくる。
「考え事? 悩み事?」
「あ、ううん、なんでもないよ。麗華ちゃんと何食べようかなって。へへ」
「そうか。静音……愛してる」
東郷に口付けされる。
朝から濃厚なキス。
「……ん……」
唇が触れるだけでも脳天を突き抜けていくような快感が走る。
自然と口元に笑みが広がる。
「僕も愛してる……!」
これからはこの人にずっと抱きしめられていていいんだ。
セックスをしてもしなくても。
部屋に飾った銀木犀のやわらかい香りが鼻をくすぐった。
僕は初恋の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
〈完〉
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最後まで読んでくださって本当にありがとうございます。
大体の流れを考えてから書きましたが、思いの外辛いシーンが多くて長くて……。
でもそれでも最後にちゃんとハッピーエンドにできて良かったです。
少しでもお楽しみいただけていたら嬉しいです。
東郷視点の番外編を一話用意しているのでこの次に更新する予定です。
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