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「お、おかげさまでなんとか小指の筋力で上がれましたけど。でも、内申点については学級委員じゃなくて別のやるつもりだったから、余計なお世話よ」
「ばぁか。今年の学級員だからこそ、内心点が大いに上がるんだろうが。催し事の」
「別に、進路のことは私もちゃんと考えてるから、手助けは不要よ……」
すると急に三浦は私の視線に合わせ、顔を近づけてきた。
これはまさしく「威圧」だ。
「なんだよ、俺の手助けなしに卒業できると思ってんの?」
「卒業くらいはできるわ。その後のために学級委員をやることになってんでしょ。その点についても大丈夫なの」
「ほーう。もしかして、もうツテでもあんのか」
「……そうね、まだ親以外に口外しちゃいけない約束になってるから、この場では言えなけど、進路先はもう決まってるの」
「何、もうそんなに話が進んでることなの」冷気を漂わせながら、こちらに詰めてきてさらに威圧してくる。
「だったら、俺にも話せるよな、それ。幼馴染みだろ? 親以外にも俺だけになら教えてもいいはずだ。だって、口外しねぇんだから」
もちろんこんなのはハッタリだが、三浦の威圧的な態度を見る限りで再確認できた。コイツは私の弱みをいつでも狙っている。
頑として私は頷かなかった。「ごめん」。
模範解答の真逆を言う私に、「それが契約ってんならしょうがねぇな! 今回ばかりは大人が絡んでることだ、許してやる」と今度は穏やかな笑みを見せてきた。
だが、私は騙されない。
私だってコイツのことを多少なりとも知っている。
その貼り付けた笑みは、外面で使う時用の社交辞令。つまり嘘の笑み。
言葉と感情がチグハグになっていることは本人もなかなか気づけない。だから、相手に見破られるのだろうけど。
三浦が某メンタリストであるなら、言葉と表情の一致くらいはさせてくるはずだろう。
そこまでの野郎じゃなくて心底ホッとしている私を他所に、三浦は「じゃあ今日はこれから忙しくなる俺らの景気づけに、カラオケにでも行っちゃいますか!」と肩を組む。
「もちろん、情報解禁になったら真っ先に俺に教えること、いいな」
「わ、分かったわよ。それより、早く行こ!」
お決まりの模範解答を言い、今日のストレス発散に歌う喜びだけが私の脳内を支配していた。
「今日は歌うぞーー!!」
「そうこなくちゃな!」
組まれた肩は解けることなくカラオケ店内に入る。
だが、よく考えればこの時点でもっと疑うべきだったのだ。
私と三浦は幼馴染みであっても、付き合ってはない。
思春期の幼馴染みが肩を組んで密着するだろうか?
後から湧いてくる疑問とピースは今の私には拾えなかった。
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