三浦透士朗——密偵の存在は意外と大きい——

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「相変わらず上手ぇな。バラードなんか寝ちまいそう」 「あら、それ褒めてる?」 「最上級の褒め言葉だろ」  俺が萌の歌声に惚れ込んでいるのをよく分かってないのか、世辞を言われているスタンスで返してくる。 「本来ならダチとカラオケに来たらマイク取り合って、みんなで盛り上がるのがカラオケボックスの使い方なんだろうけどさ。萌えと来たらお前にマイク持たせてひたすら歌わせねぇともったいねぇんだよ」 「きゅ、急に何よ?」 「小さい箱だけど、なんかライブ独占してる気分になんだよ」  そこまで言ってハッとする。そして、ほぼ無意識的に萌へ視線を移す。   (なぜそこで赤くなる?! クソ、歌手への熱が再燃してきたか?) 「あ、ありがとう」  普段ツンケンする萌が素直にありがとうを言った。これはどういう風に汲み取られたのか予想が難しい。 「三浦ってさ、不意に優しいから分からなくなるのよね……」 「え? いつも萌ファーストでしょ!!」 「え? 学級委員に関しては悪意しか感じなかったわ!」    俺は反論として「だって、クラスのヤツが萌を推薦してくれるでも、萌自身から立候補するでもないだろうと踏んで、仕方なく俺が推薦してやったんだよ。そこまでして内申点稼ぎしねぇとって思ってたんだよ」と頭を掻いてみる。 「まぁ、俺にも言えない進路の内定をもらってるみたいだし? 卒業だけしてればいいみたいなスタンスだったとは知らなかったけど」  この言葉に若干の詰まりを見せた萌は、「で、でも人柄を見るのに内申はいいに越したことはない、から学級委員は頑張る、わよ」という。    俺は満足して余裕の笑みを一つ。萌の詰めが甘すぎるのは、いつものことだ。  距離を置きたがる癖に、二人きりで個室のカラオケなんかに来てしまう萌。「友達の前でさえも思いっきり歌えない性分だから、歌える人の前だけでも歌っときたい」などとほざく萌には色々自覚がなさすぎるらしい。    いい加減チグハグの正体に気づいて欲しいが、今年の俺には多少の余裕が生まれている。 「俺も一緒に頑張ってやるから、今年を乗り切ろうぜ、楽しくな!」  高校からは歌手への興味も薄れた萌と、正面からサポートできる。進路も一緒に考えるし(嘘についてはいつか問いたださないとだが)、たくさんの催し事も一緒にやって共にする時間を増やせるのだ。  俺は恍惚の表情を努めて内に収め、再度横田に連絡を入れた。去年からの布石を今年こそ実現させるために。  今年実現できなければ意味はなさないので、横田生徒会長の失敗は許さない。   (学級委員、最高……)
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