2人が本棚に入れています
本棚に追加
鵺野萌——優秀な人材こそ疑え——
私は考えている。現状では三浦と学級委員になった時点で既に後手に回った戦況。これを少しでもいいから打破したい。
そこで、間もなく練習期間に入る体育祭で学級委員と掛け持ちで係を受け持つことを決意した。とくに、学級委員の仕事の優先度を下げられるような——そう、「応援団」だ。
高校生の応援団はどこの学校も力を入れるので、練習に割く時間の方が優先されても仕方ないと思うだろう。さらに、内申点の追加点にもなる。三浦と距離を置けて、三浦の気にする内申点とやらの問題も解決する一石二鳥の策だ。
我ながら名案である。
——と思っていた翌日にその名案は紙屑に成り果てた。
「今年から既に委員会に入っている人間は係りを受け持つことは原則禁止となった」という担任の宣告だ。
今年から生徒会長の意向で、ひとりひとりに役割を持たせて体育祭をもっと盛り上げたいそうだ。
チッタチッタと鳴らしたい舌を抑えて、求めてない担任からのバトンを渡され、係りと競技決めを遂行する。
(生徒会長は誰なのよ! 今年に限ってこんな……っ)
無論、隣で悠然にクラスをまとめるコイツは、リレーのアンカーに選出されていた。
なんでも上手いこと進んでいるらしい三浦に苛立ちを覚えて、つま先を踵からゆっくり踏みつけておく。「アンカーなんてプレッシャー大きいの、やめといたら?」。
「わお、陰湿ー」
「ちょっとした八つ当たりよ」
「今度は素直だ」
「やるからには内申点爆稼ぎしたかったのに。掛け持ちで係りができないなんて、やる気が削がれる」
「しょうがないじゃん。今年の生徒会長は全員が主役を目指すタイプだし」
これは完全に八つ当たりだが、リレーで抜かれてしまえ、と暗示をかけた。
放課後は各々が体育祭に向けて、準備や練習が進む。私はというと、ほぼ毎日のように全学年の学級委員は招集がかけられ、打ち合わせの日々だ。
当然、三浦というコブ付きだ。
「今日は二年が各委員・係り・そして競技で使う道具について、現在の状況を聞いて回る。それ以外は、昨日と同様に雑務に当たってくれ」生徒会長の言葉を皮切りに、学級委員たちは散り散りになる。
「続けて二年の学級委員は聞いて欲しいんだけど、二年は前半のクラスが係りや競技練習してるところを回り、後半のクラスが委員会を回るって感じでいい?」
三浦が率先して二年全体の学級委員に声を掛ける。一石二鳥案がへし折られてへそ曲げる私をよそに、役割を全うするどころか、生徒会長の全体的な指示からさらに指示を細分化し、リーダーシップをとる三浦。
これではどっちがコブかわかりゃしない。
書類を持った三浦に促されて、教室を後にする。
(コイツはどこまでハイスペックなのよ)
最初のコメントを投稿しよう!