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「夏目!呼び出しなんだったの、俺すごい焦った...」
「...え、ああ...」
その後すぐに教室に戻れば、宮城を含めたクラスメイト達から普段からは考えられないくらいの視線が突き刺さる。
ここで密会の約束をしてきたなんて言ったら、過激派からぶち殺されるのは確実なので、俺は咄嗟に嘘をついた。
「...提出書類に不備があったって...いう、」
なんの提出書類だよと自分でもおざなりな嘘に内心突っ込みつつ、不審に思われていないだろうかと教室内に目を向ける。
「ああ、そうだったんだ」
「まあ三上様が夏目君なんかに構う訳ないよね、ああびっくりした〜」
「久々に間近で三上様拝めて幸せすぎるんだけど!僕も書類不備しまくろくかな!」
各々自由に言いたいことを言って納得している様子に、俺はひとまず胸を撫で下ろした。
そうだ、誰も疑わない。
なんてったって俺は平凡で、この学校においてはそれも下の下に値する。
見目麗しくもなければ、家が金持ちなわけでもない。
勉強はできる自信はあるが、それ以外に誇れることなんて何一つなかった。
とりあえずこの状況をうまく誤魔化せたことを喜ぶべきだろう。
残すは今日の夜に部屋に来るとか言っていた大問題だけだ。
正直俺には対処し切れる自信はない。
そもそも部屋に入れなければ良いのではと頭を過るが、それも小心者の俺のことだ、インターホンを押されたらすぐに扉を開けてしまうだろう。
「...何でこうなったんだっけ、」
俺の虚しさを含んだ呟きは、がやがやとしている教室では誰にも拾われることはなくて、今夜が憂鬱で仕方ないと項垂れるほかなかった。
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