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あれから暫く夏目の腕の中で泣いて、優しく背中を摩る手が止められることはなかった。
「...ごめん、もう大丈夫..」
「ほんとに?」
「...大丈夫、ではないけど、...うん、マシにはなった」
今まで自身の中に燻らせていた想いを吐き出し、我慢なんてすることもなく涙も流したため、先程より気持ちは落ち着いている。
そんな俺を見て夏目は安心したように目元を緩めた。
俺はそんな夏目をぼんやりと眺めながら、掠れる声で言葉を紡いだ。
「...さっきの話聞いても...夏目は、まだ俺の親友でいてくれるの...?」
「当たり前だろ。俺の親友は宮城だけだし」
「...そっか」
ある意味、全て想定内だったのかもしれない。
俺が振られることも、俺が想いを伝えても傍を離れないでいてくれることも。
「...なんか、ちょっとすっきりした」
それだけ伝えれば夏目は申し訳なさそうな顔をしつつも小さく頷いて、ぽんぽんと髪を撫でられる。
その優しい手つきは俺のよく知っているもので、これをされると俺はいつも安心する。
「...夏目のためにセフレも一掃したのになぁ...」
「は?...でもあれは、前の彼氏さんのため...」
「はは、違うよ。ちゃんと一人に絞って彼氏作ったのだって、夏目がきっかけだったし。でも結局ダメだった。...俺、夏目じゃなきゃいけないんだって思い知らされたよ」
「...」
俺の言葉に驚いたように目を見開いている夏目に、なんて顔してるんだとその頬を摘んでやる。
俺のいきなりの行動にも夏目は反応できずにいるようで、いつもの冷静な姿とは違っているこんな夏目も愛おしいなと心の中だけで考えた。
「...でもまあ、相手が三上くんじゃ俺に勝ち目ないし。ここは身を引いてあげる」
「...」
「俺、夏目の親友だし。そのポジションは三上くんには絶対譲ってあげない」
その言葉に嘘はない。
諦めがつくものではないということは俺自身が一番わかっているが、それでも俺と一緒にいることを選んでくれた夏目から離れる気など毛頭ない。
「ほんと夏目って大馬鹿。俺みたいなハイスペック男子を振るとか絶対後悔するよ」
「...宮城、」
「でも...夏目が俺を親友に選んだことは、絶対後悔させないから」
俺は自身の中に秘める熱を帯びた気持ちには蓋をして、目の前の夏目にしっかりと視線を合わせる。
そんな俺に夏目が小さく瞳を揺らすのがわかった。
「...これからもよろしくね、夏目」
....とんだ初恋だった。
ずっと想ってきて、好きで好きで堪らなくて、何度だって悩んで泣いた。
それでも、そこに後悔なんてない。
───夏目を、好きになって良かった。
「俺って見る目あるよねぇ」
「...は?なにいきなり...」
「なんでもなーい。てかせっかく来たならゲームやらない?」
「...え、でもこの後予定あるって...」
「あんなの嘘に決まってんじゃん。俺を泣かせた分、ゲームで徹底的にしごいてやる!」
「...はは、なんだよそれ」
この恋は叶わないかもしれない。
でも、それでもいい。
夏目の笑顔は俺の心を穏やかにして、これからも想うことはやめられなさそうだなと、自身の往生際の悪さに意味もなく笑った。
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