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結局なんの方策も打てないまま夜になってしまった。
三上からは先ほどメールを受信していて、素直に喜べない知らせに俺は深くため息をついた。
それに「今から行くね」という文章の後に無駄に絵文字が乱用されているのも、ものすごく気になる。
三上からの申し出が嬉しくなかったわけじゃない。
特殊な事情はあるものの友人が増えることは喜ばしいことだし、この学校で宮城以外に接することのできるチャンスなんてあまりないからとても良い傾向だとは思う。
しかしここは天下の近衛学園。
そんな簡単な話でないことは明白だった。
勉強くらいしか取り柄のない平凡な俺が、学園の人気者と仲良くしているなんてことがバレた日には、周囲から何をされるか分からない。
「...ほんとここおかしいよ」
俺の呟きも静かな部屋では誰も聞くものはいなくて、漠然とした不安を再確認しただけだった。
••••••••••
───ピンポーン....
「まじで来たのかよ..」
普段鳴らされることのないインターホンを聞いて腰を上げ、覗き穴から窺い見れば、そこにはやはり三上がいた。
俺の部屋は幸いにも廊下突き当たりの最奥の部屋で、かつ目の前には非常階段がある。
密会には最適の部屋だなと考えて、そもそも密会なんてしたくねぇよと内心溜息を吐く。
あんまり待たせてもなとすぐに扉を開けてやれば、三上は俺の方を見やってにこりと笑った。
「やあ夏目くん」
「...やあ、じゃねんだよなあ..」
「早速だけどお邪魔するよ」
扉の前に立ち憚っていた俺の脇の下を腰をかがめて器用に抜けていく三上にワンテンポ遅れながらも、俺はゆっくりと扉を閉めた。
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