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「随分と綺麗にしているね」
「え、...ああ、勉強して寝るくらいで共用部はほとんど使わねぇから」
この学校は無駄に設備が豪華で、一般生徒の部屋でさえ2人分の個室がついている。
最初全寮制と聞いた時には、狭い1室に4人くらいで二段ベッド...なんてものを想像していたから、パンフレットの施設欄を見た時にはひどく感動した覚えがある。
部屋の共用部分は風呂の時くらいしか利用せず、1人でも自室に篭りきりのため、汚れるような要素もあまりなかった。
「ご飯はいつもどうしてるの?」
「基本食堂かな」
何気ない質問に淡々と答えてやれば、三上はそっか残念だな...と表情を曇らせる。
何が残念なんだとその先の答えを待っていれば、俺の視線に気づいた三上は口を開いた。
「食堂だと夏目くんと一緒に食事が取れないなと思って。自炊でもしていたらこれから毎日夕食を共にできたんだけれど、見る限り調理器具も揃っていないようだしね」
「...え、..はあ..。」
三上からの想定外の言葉に気の抜けた返事をして、しかし食堂利用で良かったと思ってしまう自分もいる。
人と飯を食べるなんて今まであまりしてこなかったから落ち着かないにも程がある。
食堂だって端の方の目立たぬ場所でそそくさと済ませているし、昼も基本的には抜いている。
それに一応特待生である自分は食堂の無料待遇が受けられるため、自炊した方が高くつくのは明白だった。
「...となると、俺の部屋本当にやることないよ。だからそろそろ帰っ..」
「なんとしても君との仲を深めたいな」
「...え、」
「食事はひとまず諦めるとしても、できる限り一緒に過ごそう」
「...えぇ..」
結局はまだ帰らないんだなと悟ると同時に、これからのことも一気に決まってしまった気がして、ぽんぽんと進んでいく話に頭がついていかない。
「いや、だとしても...俺部屋では勉強くらいしかしてねぇし、何するつもりなの」
「...そうだね、とりあえずは軽いスキンシップから始めようか」
三上と話していると意識が遠のいていくなと、他人事のようにぼんやり思った。
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