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「....なんか、ごめんね」
俺が落ち着くまで、夏目は何も言わずに傍に居てくれた。
こんな醜態を晒すはずじゃなかったのに、結局俺は今も夏目の優しさに甘えてしまっている。
「何がだよ、別にいいって。少しは落ち着いた?」
「...まあ、うん」
「そっか。...で、何があった?俺で良ければ話聞くけど」
「...」
夏目の優しい言葉に、俺は言葉に詰まる。
言ってしまえば楽になる。
しかし言ってしまえば、夏目を傷付ける。
そして、最後には俺の元も離れていくことになるだろう。
夏目が俺を『友人』として求めているからこそ、自分本位な思いでその居場所を奪ってしまって良いものかと思い悩んだ。
「...宮城?なに、俺には言いづらい話?」
「え、...いや...」
「別に無理にとは言わねぇよ。ただ、話すことで宮城が少しでも気が楽になるなら、俺はちゃんと聞きたいと思ってる」
「....っ..、」
夏目はそう言って俺に視線を合わせてくるので、思わず顔を逸らした。
いつだって俺のことを見ていてくれて、真っ向から受け止めてくれる。
周囲の友人たちのように楽しい時だけでなく、俺の面倒臭い部分を含めて夏目は俺と一緒に歩んでくれた。
だからこそ今まで散々な行いをしてきたことも反省したし、夏目のことを知れば知るほど好きになった。
ただ、その優しさにこのまま甘えてしまってもいいものか。
「宮城、...大丈夫だから」
「...夏目..」
俺を労るように酷く優しい声で名前を呼ばれて、その真剣な眼差しに俺はまた泣き出しそうになる。
夏目なら、俺の気持ちを知った上でも今まで通り傍にいてくれるだろうか。
そんな気持ちを抱えながら、俺は重たい口を静かに開いた。
「...今から言うこと、たぶん...夏目を困らせると思う。それでも聞いてくれる...?」
「当たり前だろ。伊達に宮城の親友やってねぇから。俺のことはいいから話すだけ話してみろよ」
「...、」
俺の問いかけにも夏目は迷うことなくそんな言葉をくれて、せっかく止まった涙がまた溢れそうになった。
「...あのね、俺...」
「うん」
「夏目のこと、...好きなんだ」
「え?...それは、」
「...うん、友達としては勿論だけど...その...恋愛感情、ありで」
言ってしまった。
夏目に、想いを伝えてしまった。
自分が酷く傲慢で、取り返しのつかないことをしている気がしてならない。
反応が怖くて夏目のことを碌に見ることもできず、震える手をぎゅっと握り込む。
....夏目は今、どんな顔で、どんな思いで、俺のことを見ているんだろう。
俺の途切れ途切れの言葉を何も言わず静かに聞いていた夏目だったが、次の瞬間にはいつものようにぽんぽんと頭を優しく撫でられる。
「...っ.....」
「悩みって俺のことかよ」
想定外の行動に思わず視線を向ければ、夏目は困ったように眉を下げたまま俺にそんなことを言う。
そしてにこりと微笑んでから、静かに言葉を続けた。
「...俺なんかのことで、宮城がそんな悩んでるって知らなかった。それは本当にごめん。宮城のことだから、俺を変に悩ませたくないとか色々考えてくれてたんだろ」
「...うん、まあ...。夏目は俺のこと友達としてしか見てないのに、俺からこんなこと言ったら夏目の求める関係じゃいられなくなると思って...」
「ほんと、変なとこで世話が焼けるな」
...嫌われたかな。
裏切られたと言われても、俺から離れたいと言われても仕方ない。
そんな一抹の不安を抱えていればまた堪えていた涙が頬を伝い、俺はそれを必死に拭った。
「宮城、悪いけど俺には三上くんがいるし、気持ちには応えられない」
「...っ...、うん...」
「でも、ありがとな」
「...ありがとうって...なに、」
「こんな俺のことも、宮城はちゃんと知った上で好きだって思ってくれてたんだろ。それは感謝以外の何者でもねぇよ」
「...」
夏目はいつだって俺のことを受け入れてくれる。
それは今だって。
分かりきっていた答えは思いのほかスッと自身の胸に落ちてきて、その代わりに夏目の優しい言葉が脳内に巡る。
「...夏目、ごめん。...ごめんね、裏切って...」
気付けば夏目に縋り付くように謝罪を口にしていて、夏目はそんな俺の背中をぽんぽんと優しく摩った。
「別に裏切られてねぇよ。宮城は俺の親友だし、大切に思ってる。それはこれからも変わらない。俺の親友は宮城じゃなきゃ務まんねぇよ」
「...っ...、なつ、め...」
「とりあえず胸貸してやるから」
───好きにならざるを得ない。
きっと俺がどんなに我慢をしたところで、自制を掛けたところで、その事実は変えようがなかったんだろう。
夏目の一挙手一投足に愛おしさを感じて、日々想いが強まるのを感じていた。
それは今も同じで、こんな状況になっても俺を第一に考えてくれる夏目に、また自身の中の燻る想いが激しく脈打つ。
「...好き、...好きだったんだよ、...夏目のこと、すごい好きだった、...今だって大好きだよ、夏目」
今まで伝えることのできなかった言葉が涙と共にとめどなく溢れるのを、俺は止めるなどできなかった。
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