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あの後暫く宮城と過ごし、気付けば日も暮れている。
宮城の部屋を出てみれば一気に冷静になり、先程の宮城の悲痛な姿がふと脳裏に過ぎる。
胸の奥が、つきりと痛んだ気がした。
別れ際にも「今日はごめん」と申し訳なさそうに謝ってきた宮城を思い出して、それはこっちのセリフだと自身の鈍感さにも辟易とする。
今まで三上も宮城も意味深な発言をすることが多かったが、それも今日で納得がいった。
俺のことで、宮城はずっと悩んでいたんだろう。
「...しっかりしなきゃな」
事実がどうであれ、宮城との関係は変わらない。
これからもっと悩むことも出てくるだろうし、きっと楽しいことばかりではない。
それでもやはり宮城には笑顔でいて欲しくて、自身の中で宮城という『親友』の存在が思いのほか大きかったことを自覚した。
•••••••
「ただいま。ごめん、思ってたより遅くなった」
「...夏目くん。おかえり」
部屋へと帰れば共用部から三上が顔を出し、そのまま笑顔で出迎えられる。
三上は今日俺たちがこうなることをわかった上で、快く送り出してくれたんだろう。
そう思うと俺は、色んなところで知らず知らずのうちに気遣われているのかもしれない。
「...薫、」
「宮城くんとちゃんと話はできたかな」
「...うん、できたよ」
「そうか。それなら良かった」
三上はそれだけ言ってソファへと腰を落ち着けるので、俺もそれに倣って体を預ける。
「...薫、宮城のこと知ってたんだよな」
「そうだね、彼は僕の1番のライバルだから」
「はは、...知らなかったの俺だけか。ほんと、俺ダメなやつじゃん」
「そんなことないよ、君はいつだって魅力的で、人のことを思っている。宮城くんだって僕だって、そんな君が大好きなんだ。だから誰も君を責めようなんて考えていないよ」
後ろめたさの滲む言葉にも三上はそう言ってくれて、どこか心が軽くなるのを感じる。
そして、これ以上周りの人間を悩ませたり悲しませたりすることがないようにしなければと、改めて自身を鼓舞した。
「薫は俺いない間何してたの」
「エリザベスとミチオに餌をやって眺めていたよ」
「...え、...ずっと?」
「うん。夏目くんに想いを馳せながらだったから、あっという間だったね」
「...まじ。すげぇな」
想定外の言葉に驚くが、なんだかそれも三上らしくて苦笑いする。
とはいえ3時間くらい部屋を空けていたわけだから、笑い事では済まないくらいに思い悩ませていたのではないだろうか。
先程「周りの人たちを悲しませないように」と考えたばかりだった俺は内心不安になって、隣に座る三上にまっすぐと視線を合わせた。
「...薫、ありがとね。今日わかった上で宮城のところ送り出してくれて。...でも、それで薫に無理させてたんなら...」
「夏目くん。大丈夫だよ、僕は。君を信じていたし、宮城くんだって今は僕の大事な友人だ。勿論不安がなかったわけではないけれど、夏目くんはこうしてきちんと宮城くんに向き合って、僕のところに戻ってきてくれた。それ以上に求めるようなことなんてないよ」
三上はそう言ってふわりと笑う。
そんな姿に、俺は気付けば三上を抱きしめていた。
「...どうしたんだい、君から抱きしめてくれるなんて珍しいね」
「...なんでもない。ただ、...」
「ふふ。...おかえり、夏目くん。よく頑張ったね」
俺の言葉は最後まで続くことはなく、三上のそんな温かい言葉に包まれる。
俺はそれに身を任せるように、三上の冷たい指先に指を絡ませた。
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