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「え、それでどうしたの?」
「わけわかんなくて、とりあえず逃げた...」
「は!?それは最低すぎるでしょ、いくら夏目に恋愛スキルないからって、流石に相手の子かわいそすぎ」
「....だよな、」
友人である宮城に、昨日あった出来事を絶賛お悩み相談中だ。
昨日のことを名前を伏せて話せば、芳しく無い反応が返ってくる。
失礼。可哀想。最低。
そんなことは俺だって百も承知だ。
ただ相手はあの三上だ。なんの取り柄もない自分に告白なんかされてみろ、誰だって逃げたくもなるだろう。
俺は誰に向けたわけでもない言い訳を頭の中で反芻しながら、バツが悪くなり腰を上げる。
「でもこの学校にいながら夏目に告白とか割と見る目あんじゃない?...って、おい夏目逃げんなよー」
「...トイレだって」
宮城のブーイングも聞き流しつつ、休み時間で騒がしい教室を抜けてまた一人考えを巡らせた。
何故三上は俺なんかにあんなことを言ったのだろうか。
そもそも接点なんてなく、共通点と言えば同じ人間で同じ性別で、たまたま学年が同じだったということくらいだ。
「わっけわかんねぇ..」
トイレで用を足して手を洗っていても、鏡に映るのは平凡な自分の顔で、無駄に顔面偏差値の高いこの学校では埋もれるどころの話ではない。
もしかして罰ゲームか何かだろうか。
だとしても三上はそんな低俗なことをするような人間ではないようにも思える。
才色兼備で謎の多い学校の人気者。
表立って騒がれることは少ないものの、陰でミステリアスで格好良いだの抱きたいだの抱かれたいだのはよく聞く。
そんな雲の上のような存在が何故俺なんかに。
考えれば考えるほど答えは分からなくて、とりあえず罰ゲームだということで無理やり自分を納得させた。
それか本命に告白する前の予行練習か何かだ。
きっとそうに違いない。
「あ、戻ってきた」
「...なに」
「何、じゃないでしょ。今日の放課後にでも声掛けて答え出してやりなよ。待つ側もきっとしんどいよ」
「...ああうん、そのことなんだけど」
たぶん何かの間違いだから、今日話してみようと思う。
そう続けようとして、2限目の英語教師が教室に入ってくるのが見えて口を噤む。
自席に腰を落ち着ければ宮城はこちらを見て親指を立てていて、グー!じゃねんだよと心の中だけで悪態を吐いた。
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