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「夏目君から早速呼び出しをもらうなんて嬉しいな。昨日は急用でもあったのかな?」
「は...?いや、あの...急用っつーか...」
三上の本気なのか冗談なのかわからない言葉を訝しげに思いつつ、昨日逃げ帰ったことに多少の後ろめたさを感じながらゆっくりと口を開く。
「...告白なんてされたの初めてで、パニックになった。だから昨日はごめん」
「ああ、そうだったんだ。夏目くんはウブなんだね。そんなところも愛おしいよ」
「は、愛おしい...?ウブ...?」
辿々しく紡いだ言葉にもにこにこと表情を変えない三上から、とち狂ったような発言がされた気がしたが、緊張のあまり聞き間違えたのだろうと深くは考えないようにする。
「それで、答えはどうかな?」
そして確信に迫るかのような三上の単刀直入な物言いに、俺は小さく拳を握った。
「...えっと、あれって俺の聞き間違いじゃ..」
「ないよ」
「...じゃ、じゃあ、罰ゲームとか、」
「違う」
「...本命の告白の練習台...?」
「そんなわけないだろう。君が本命だ」
想定していた事を全て口にすれば、悉く否定される。
じゃあ一体なんなんだよと躊躇いがちに視線を上げれば、三上の色素の薄い瞳がじっとこちらを見据えていて、思わずどきりとする。
「言葉の通りさ。僕は夏目くんのことが好きだ。だから付き合って欲しい」
「....な、んで..」
「何で?ああ、一応夏目くんの好きなところや付き合って欲しい理由は原稿用紙にまとめてきたけど見るかい?1枚に収めるつもりが22枚になってしまったけど..」
「は、」
そう言って鞄から紙の束を取り出そうとする三上に、ますます混乱する。
22枚?
何をそんなに書くことがあるんだ。俺の16年分の人生ですら1枚にも満たず書き切れる自信がある。
混乱に混乱を重ねた結果、気付けばまた逃げ出していた。
人気のない教室から俺を呼ぶ声がした気もするが、振り返る余裕もなかった。
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