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「え、また逃げちゃったの!?夏目ほんと何しに行ったんだよ、最低すぎる」
「...んなこと言われても俺そういうの慣れてねぇし、...それに相手は、」
翌日宮城に根掘り葉掘り聞かれて、結局逃げ帰った事を伝えればすぐにお叱りを受ける。
それに反論するように相手の名前を口にしようとして、俺は咄嗟に口を噤んだ。
「...また機会あったら伝えに行くよ、付き合えないって」
「ほんとヘタレだね。また逃げ帰るなよー、ほんとこれだから童貞は」
「宮城だって童貞だろ」
「俺は...ほら、童貞だけど後ろは、さ」
至極真っ当な返しをすればいきなり恥じらいを見せて言葉を濁す宮城にやれやれと思いながら、俺の気持ちを理解してもらおうなんて考えちゃダメだったなと思い直す。
この学校は少し特殊だ。
山奥にある全寮の男子校、近衛学園。
その歴史は古く、今年で創立100周年を迎えるらしい。
男しかいないこの環境にも関わらず校内で色恋沙汰は絶えず、高校から外部入学した俺にとっては異世界にも等しい環境だった。
それももう早一年。
最初こそ馴染めないと思い込んではいたが、普通に友人はできたし学校生活も問題なく送れている。
それもこれもこの俺がなんの特徴もない目立たぬ生徒だったからだろう。
この学校の生徒は無駄に顔が良い奴が多く、生徒会も顔面投票なのではというくらい見目麗しく、生徒からも騒がれている。
しかし顔面中心に回っているかと思いきや、優秀な生徒も数多くいて、天が二物を与えた人間達の集っている場所と言っても過言ではない。
まあそんな華のある世界に、平凡な俺は関係ない。
高校生活、彼女でも作ってなどと考えた時期もあったが、今はもう平穏な生活が送れてさえすればそれで良いとさえ思ってしまっている。
それなのに───
『君のことが好きだ』
高校1年ももう終わりというまだ肌寒い春頃、まさかこんなことになるとは予想もしていなかった。
新しい扉を開けるにしても相手はあの三上だ。
その真意も掴めていなければ、三上について知っていることと言えば名前と顔くらいしかない。
まずは三上について知って、友達から始めるのもありかもしれない。
なんてったってこの学校でいま友達と呼べる存在は宮城しかいないのだ。
外部生で、かつ平凡な俺とわざわざ友達になりたいなんていう物好きはこの学園にはいなくて、最初に声を掛けてくれた宮城と今もこうして連んでいる。
その宮城も最近は彼氏ができたとかでふわふわしているし、そろそろ俺も自分で友人を作るべきだろう。
「とりあえず、今日また話してみるか...」
若干気後れすることはあるが、少しだけ見えた気のする未来に、俺は覚悟を決めた。
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