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「うん、それは無理なお願いだね」
俺の願いも虚しく、「友達としてなら」という提案は一瞬のうちに却下された。
「僕は君と友達になる気はないんだ。恋愛感情として好きだから、きっと君の望む友人関係ではいられないよ」
「...えっと、いや...えぇ..」
凛とした透き通るような声でそう断言されて、思わず泣きそうになる。
なんでそんなにストレートなんだ。
だがしかしここで退いてはいけない。俺の中にあるのは「友達か、いままでどおり他人か」であって、「恋人」なんて選択肢は絶対に取れない。
「でも、さ。俺、正直三上くんのこと何も知らないし、それでいきなり付き合うっていうのも...」
「まあ言われてみればたしかにそうだね。でも心配はしなくて大丈夫だよ、その懸念についてはこの資料に僕の基本情報と半生をまとめて...」
「いやいやそういうことじゃねぇから、!」
デジャヴだ。
昨日と同じようにまた鞄から怪しい資料を取り出そうとする三上を、俺は慌てて止めた。
そんな俺を三上は不思議そうな目で見つめて、にこりと微笑む。
普段生徒の中心で見かける三上は、基本的に無表情なイメージだったから、昨日からこんなやりとりをして優しい表情を浮かべるその姿が少し可笑しく感じた。
「何か不安な点があるなら聞くよ。僕は君のために最善を尽くすつもりだ」
「...ああそう、それはありがとう...じゃなくて、...そもそも俺は自分が好きだと思った人としか付き合う気はねぇし、...何も知らないで付き合うとか論外っつーか、」
今日はちゃんと思っていた事を伝えられた。
それだけ言って三上の反応を伺えば、やつは何かを考え込むような顔をしていて、そんなにおかしなことは言ったつもりないぞと内心焦る。
「...君の言うことももっともだね。よし、それであれば付き合う事を前提として友人関係から始めよう」
「は、?」
「...この間に僕のことをよく知ってもらいたい。けれど君と恋人になるために僕は色々と動くつもりだから、そこは了承してくれると助かるな」
「え、ちょ...」
「無事に話がまとまって良かった、明日からよろしくね」
話の超展開に付いて行けず瞠目している俺をよそに、三上は納得したように話を切り上げる。
じゃあ僕はこれから生徒会室に行かなくちゃいけないから、そう言い残して、三上はその場を立ち去った。
「....全然良くないだろ、」
俺のそんな呟きは誰にも届くことはなく、明日からの穏やかな生活が脅かされるのではと、今更ながらことの重大さに恐れ慄いた。
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