溶けるくらいに

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 梶先輩が酷い顔色のまま、連れ出された部屋は、急にがらんとした気が抜けたような空気になった。広大さんは、私を優しくソファに(いざな)って腰掛けさせた後、グラスの水を運んできた。  私は先輩のキスの感触が残っていた唇を(すす)ぐように、グラスに口を付ける。  隣に座った彼をそっと見上げると、まだ厳しい表情のまま私を見ていた。 「かなり怒ってるよ、俺」  そう言って私の手からグラスを引き受けると、広大さんは少し乱暴に唇を重ねてきた。いつものような優しく喰むようなキスじゃない。深く責めるようなキスだった。 苦しくなっても、私には逃げる権利はない気がして、その苦しさに耐えていると涙が溢れる。  涙が唇につたって、それに気づいた広大さんは、キスを止めた。 「どうして1人で動いた。喘息の事だってあるだろ、発作が起きたらどうするつもりだったの?俺じゃあ、役に立たないと思った?」  息が切れたまま、強く首を振る。その私の頬を両手で包んで、今度は悲しげな瞳が私を見つめた。 「…広大さんと会社を、守らなきゃって。できっこないのに…ごめんなさい」  広大さんの中に、溶けるくらいに抱きしめられる。  このまま、本当に溶けてしまいたいと思った。  愛している、広大さんの中に。  
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