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「やった! これでおじさんがカブの餌だ! わーい」
「おいお前、何つう物騒なことを言うんだよ。それに俺はおじさんじゃない、お兄さんだ。まだ28だからな」
「えー」
「それでこれは何の悪戯だ」
「悪戯じゃないもん! おじ、お兄さんも早く次の人に捕まらなきゃダメだよ! そうしないとカブに食べられちゃうからね!」
何故だかふんぞり返るパンダに困惑は深まった。
そもそも存在自体が訳のわからないパンダの意味不明な話はこうだった。
このパンダの後ろにはたくさんの捕まった者たち、供物候補がいる。それでその最奥にはカブと呼ばれる大きな鬼がいるらしい。
そのカブが歩き出したら一番近くの人を食べようとする。そうすると自分を捕まえた人を前に出して『この人の方が新鮮ですからこちらをお食べください』と言う。そうするとカブは『うむ』と頷きその人を食べようとする。けれどもその人も『この人のほうが新鮮で〜』と言い、自分を捕まえた人をさし出す。これを繰り返して最後尾にいる者が食われるらしいのだが、つまり今それは俺になったわけだ。
カブがうむと頷き?
さっぱり意味がわからないが俺はカブに食われるらしい。そんなバカなと思うが、そんなバカな話をしているのもそんなバカなと言える喋るパンダのぬいぐるみだ。そんなバカな。
だが俺は『巻き込まれ体質』だ。こんなわけのわからない事態も、残念ながら割とよくあることだ。
そしてその謎の連鎖からなんとなく思い浮かぶ話があった。
「そのカブってでかいのか?」
「そりゃあもう。山のように大きいんじゃないかな?」
「かな? というか逃げればいいんじゃないのか? 俺が全力疾走で逃げて、お前が俺を見失ったらそれで終わりじゃないか」
「そんなことはありません。必ず自分より足が遅いものを狙いますから」
偉そうに腰に手を当てエヘンとしゃくれるパンダのぬいぐるみを上から下まで眺める。こいつが俺より足が速い? そんなバカな。
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