パンダに追いかけられる

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 そのまま仔細気にせずどんどん進み、まさか終点が近づいてくるとは思っていなかったらしい慄く生首の横を通る時、ロボットと同じように伝言を伝えながら更に後ろを覗き込むと、長い紐が浮いていた。なんだこれ。一反木綿の亜種か何かなんだろうか。  後ろを振り返ると少し後ろにパンダが、その後ろにロボットがついてきているのが見える。順調で良い。  伝言を繰り返しながらいくつもの奇妙な存在を辿る。そのうちにだんだんと世界は奇妙な暗い洞窟に繋がり、それを抜けた先の山を越え、谷を渡っていつのまにかのどかな農村風景にたどり着いた。  ホーホケキョとウグイスのなく麗らかな春だった。なんだか時空が歪んでいる。ここは既に俺がいた現世(うつしよ)ではない。俺がいた街は冬だったはずだがすでにここは地球ではないのだ。ただ、この世界の根幹が春というだけなのだろう。カブの旬は春と秋とも聞くからな。  その農村に到達するまで都合132体の何だかよくわからないものの隣を通り過ぎ、ようやくそのネズミにたどり着いた。  ネズミは驚いた顔で俺を見た。  まぁそうだろうな、マウンテンパーカーとニットカーデにスキニージーンズなんておそらく見たことがないに違いない。暑い。  そして俺は長い長い列を引き連れてねずみの隣を通り過ぎ、しっぽを太くして警戒するねこの隣を通り過ぎ、低く唸る犬の隣を通り過ぎ、15くらいの目を丸くする垢抜けない娘の隣を通り過ぎ、口をあけっぱなしのおばあさんの隣を通り過ぎ、苦り切った顔をした皺の深く刻まれたおじいさんの前にたどり着き、その先にこの冒険で俺を待ちうけていたもの、そしてこの世界を構成する根幹を見た。  おじいさんの後ろには地表に見える範囲だけでも高さ10メートルはあろうかという白い塊が地面に埋まっていた。地中を入れると全長は20メートルに達するのかもしれない。……俺が記憶しているカブの話の表紙ではせいぜい2メートルちょっとくらいだった記憶があるのだが。  厳密に言えばこれはロシア民話だから、蕪の原種であるブラッシカ・ラパかもしれないな。その生態なぞ知らぬが、アブラナと科の植物は核内倍加によって表皮細胞が巨大化するらしいから、そういうものなのかもしれない。 「スタリク(おじいさん)、このカブは随分でかいな」 「……何故ここに人間がおる」 「あんたが始めた呪いが俺をここに呼び寄せたのさ」 「……」 「あんたがカブの種を植えたんだろう? 何故こんなことをする」 「それがこの世界の定めなんだよ。これはオバケカブだがこの種を撒かないと物語が始まらない」 「ふん、随分メタ的な話だな」 「物語とはそういうものさ」
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