パンダに追いかけられる

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 おじいさんは両手で野球ボール大の丸を作る。 「最初はこのくらいの大きさの種だった」  種の時点で既に随分大きく見えた。カブの種というものはは見たことがないが、この種自体が既に普通のカブ1つ分ほどの大きさに見える。 「俺たちは冬が来たら種を植える。春になったらカブを収穫する。それができずに夏を過ぎたらこのカブは人を食う。そして誰もいなくなる。けれども冬になったらカブは枯れて種になる。この話は繰り返される人とカブの闘争の歴史なんだ。だから大きくなりすぎる前にカブを抜かなくちゃならないのにな」 「うまくいかなかったのか」 「そうだ。いつだったかな。それまでずっとうまくいってたから少しだけ油断して、それで少しだけ抜くのが遅くなったんだと思う。その年はネズミの手を借りてもカブは抜けなかった。だからネズミに誰かを呼びにいくように頼んだんだ。ネズミを捕まえてネズミを引っ張る者を。けれどもネズミにそこまでの頭はなくて、そこらへんを走り回っているうちにカブが這い出して全てを食べてしまったのだ」 「ネズミじゃぁなぁ」  ネズミが所在なさげにキョロキョロしている。  カブを見上げる。とてもとても大きなカブだ。これを人3人と動物3体で引き抜くには既に手遅れなのだろうな。 「わしらは新しい物語が始まる時、カブと一緒にこの世界に生えてくる。まずわしが生え、カブの種を撒き、そのあと順番にばあさんや娘が生えてくる。だが情報は引き継がれた」 「情報?」 「そうだ。わしらは毎回カブを食って力を蓄えて終わる。その年はわしらはカブを食えず、カブはわしらを食ったのだ。だから力関係が逆転した」 「食った分だけカブのレベルでも上がったのか」 「レベルというものが何かはわからんが、ともあれその次の年は娘が生えた直後でも、犬や、猫や、ネズミが生えた直後でもわしらはカブを抜けなかった。間に合わなかった。それ以降はずっと食われ続けてる。だがそのうちネズミも学習したのだろう、わしらを真似て何かを呼びに行くようにはなった。だがネズミを引っ張ってくれる者はいなかった」 「ネズミに伝言ゲームは無理だろ」
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