DAY16:結び橋

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森の中の秘密基地の中。 沙羅は一人で身を縮こまらせて座っていた。 彼の手には、赤い糸で腕を繋がれた千夜と沙羅を模した二つの編みぐるみがある。 「ねえ、縁結びの神様……ううん、メガネのお姉ちゃん。僕、全部思い出したよ……」 「ふえっ!?じ、自分の姿……み、見えているのでありますか、サラエア!?」 驚いて訊き返す紬に、ううんと沙羅は首を横に振った。 「見えてない……この時の僕には。でも、今ここに居る僕は……沙羅じゃなくて"サラエア"なんだ。ここは本当の過去じゃ無いから……メガネのお姉ちゃんの見せている夢の中なんでしょ?」 「サ、サラエア……ほ、本当にあなたなのでありますか?」 「うん……僕ね、忘れてた。どうして、僕が縁結びの神様になりたかったのかってこと……千夜ちゃんのこと……僕が悪霊になってしまった理由のこと……何もかも全部。ありがとう……思い出させてくれて。僕はお姉ちゃん達に……酷いことしたのに」 「そ、そんな……お互い様、なのであります!じ、自分も……あなたに思い出したくないことを思い出させてしまったのでありますから……」 「違うよ、メガネのお姉ちゃん。僕は千夜ちゃんとのこと、思い出して辛いなんて思ってない……良かったと思ってる。思い出せなかったら、僕……また誰かを困らせていた」 目を閉じて口元に穏やかな笑みを浮かべるサラエアに、紬は返す言葉を思いつけない。 (全てを……千夜ちゃんのことを思い出させるのが……本当にサラエアを救ったことになるのでありますかね?こんな小さな子が抱えるには辛すぎる過去……忘れたままにしておいてあげた方が幸せだったのでは無いかと思ってしまうのであります……) 「……メガネのお姉ちゃん。悪霊も……天国に行けるのかな?僕も千夜ちゃんの居る所……行けるの?成仏……できるのかな?」 「わ、わからないのであります……でも、きっと。じ、自分は悪霊にだって幸せになる権利があると思うのであります……」 「幸せ、か……僕、千夜ちゃんに会いたい。千夜ちゃんが居る所に……どうやったら行けるかな?」 「そ、それは……」 紬が視線を彷徨わせながら答えあぐねていると 『……紬ちゃん』 ふと、どこからか自分の名を呼ぶ声が聞こえて来た。 「こ、この声……依子ちゃん、でありますか?」 『ふふっ、紬ちゃん……こっちだよ』 「依子ちゃん!ど、どうやったら、自分とサラエアは現実世界に戻れ……ふああっ!?」 紬が依子ちゃんに尋ねようとした刹那。 眩い光が辺りを包み、紬は目を閉じて右腕で顔を覆った。 やがて光が収束すると、そこは夕焼けでオレンジ色に染められた久遠橋の上で 「サラエア!俺達の体を元に戻してもらうぞ!」 「お、お願いします!も、元の僕の体を戻して下さい!」 「よくわかんないけど観念しなさいっ!」 「ふっ……共闘から生まれる恋も悪く無いものなのだよ」 欄干にもたれかかるサラエアと、体を入れ替えられているランタンと湊、コフィンとグレイミーの四人が対峙している。 四人の後ろには、ふふっと意味深な笑みを浮かべて黒い靄姿の紬を見つめる依子ちゃんの姿があった。 「依子ちゃん!こ、これで……いいのでありますか?」 「ふふっ……大丈夫だよ……ありがとう」 問いかけて来た紬に笑顔で答えた彼女の姿の依子に、どうしたんだよと湊の姿のランタンが口元を歪めて訝しげに眉を顰める。 「独り言か?一体、誰と話してるんだよ、あんたは……」 「……内緒でありますよ、今は……ね。それよりも……サラエアと話をするのでありますよ、ランタン……」 紬の姿の依子に促され、戦うの間違いだろとランタンは金と赤のオッドアイの瞳を細めて彼女の言葉を訂正してサラエアに向き直った。 サラエアはどこか夢現(ゆめうつつ)な表情をして、彼では無くジッと夕陽を見つめている。 「おいっ!聞いてるのか、サラエア!?素直に元に戻す気が無いなら、こっちにも考えが……」 「夕陽……綺麗だね。天国も綺麗な所なのかな……」 「えっ!?ど、どうなんでしょう……ぼ、僕は悪霊ですからわからないです……」 ぽつりと問いかけてきたサラエアに真面目に答えを返す湊に、彼女の姿のランタンは自分の姿の湊に、あのなあ……とジトーッとした視線を送った。 「そんな奴に答える必要無いんだぞ、湊!」 「ご、ごめんなさい、ランタン先輩!な、なんだか、サラエアの口調が真剣だったので、つ、つい……」 「……僕ね、天国に行きたい。千夜ちゃんが、多分そこに居るから……」 穏やかな笑みを浮かべて夢を見ているような口調で願いを口に出すサラエアに、何言ってるんだよ……と湊の姿のランタンは呆れているような顔をする。 「"千夜ちゃん"って誰だよ……天国に連れて行けって俺達に頼んでいるのか?」 「ジャック・オ・ランタン……そのカブのランタンに僕の"漆黒の魂"を回収してもらったら、天国に行ける?」 「質問に質問で返すなよ!何でもいいから、俺達の体を元に戻せ!さもないと……」 「うん……いいよ。その代わり……僕を天国に行かせてね?」
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