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「もうっ、本当に昔から仲が良いんだから……いっそ、蘭太が紬と幼馴染だったら良かったのにって、思ってしまうわ」
「ひっどいなー、母さん!俺が息子なのが嫌なのかよ?」
「ふふっ……そんなわけ無いでしょ。二人とも、私の可愛い子供達なんだから。ただ、紬って全然男っ気が無いでしょ?だから、将来が心配なのよ……小さい時なんて"お兄ちゃんと結婚するー"なんて本気で言ってたもの」
「あー……あったな、そんなこともさ。俺としては嬉しいけど困るわけで……まあ、紬ももう少し歳を重なれば、三次元の恋愛に目覚めるんじゃないか?」
「……他人事のように言ってるけどあなたもよ、蘭太?紬ばかりじゃなくて、自分の心配もしなさいね?私もそろそろ孫の顔を見たいって思う歳になってきてるんだから」
「前向きに検討しておくよ、母さん。もう少し紬と話したら、自分の部屋に戻るから安心して?」
本当の親子であるかのように優しい口調で言葉を返すランタンに、ほどほどにねと紬の母親はやんわりと注意すると、洗濯物を床に置いて紬の部屋から出て行く。
「んんーっ!!」
「あっ、苦しかったか?悪かったな……あんたが話に入ってくるとややこしくなりそうだったからさ」
ようやく彼女の口から右手を退かしたランタンに、ぷはあっと紬は豪快に息を吐くと、どういうことでありますかと彼に詰め寄った。
「ふ、双子の兄妹とか、蘭太って偽名のこととか……そもそも!な、なぜに、ランタンのその目立つカボチャ頭を、母上は完全スルーなのでありますか!?」
「言っただろ?上手くやる……って。家に一緒に居るなら兄妹……それも双子ってことにした方がいろいろと都合が良い。ランタンって名前は紬と兄妹っぽくないからな……一文字とって漢字で充ててみたんだ。このカボチャ頭のことは……気にならないようにしてみた。簡単に言えば、紬の母親の記憶を書き換えたんだよ」
「き、記憶を書き換える……?そ、そんなことができるのでありますか、ランタン!?」
「姿を見えなくし続けるよりも、こっちの方がまだ霊力の消費は抑えられるからな。それに一度書き換えてしまえば、その効果はハロウィンの期間中継続する……無駄も無くて一番賢いやり方だとか思ってさ」
そう種明かしをするランタンに、紬はただ目を白黒させて言葉を失う。
(や、やはり、無茶苦茶であります……ランタンの言うことは何一つ理解不能で、身勝手であります……けれども。理に適ったところもあると思ってしまう自分が嫌なのであります……)
「し、しかしながら、双子の兄妹というのは……」
「嫌か?だったら、恋人にしておくか?それだとこんな時間に会うのは逢引になるから、あんたの母親に見られるのは少しまずいんだけどな……」
「ふ、双子の兄妹で良いであります!!」
頰を紅潮させて全力で主張する紬に、それは残念とランタンは少しも残念で無さそうな口調で言った。
(こ、この男は……どこまで自分をからかう気でありますか!?くうっ……判断をミスしたのであります……あの時にダメ元で百十番して追い出しておけば……)
「……今夜も月が綺麗だな、紬」
不意にランタンからそう話を振られ、ふへっと紬は拍子抜けような声を出して窓から外を見る。
「た、確かに今夜は満月でありますね……綺麗と言われれば、綺麗な気もするのでありますけど……」
「んー?紬は月より団子派か?」
「むうっ……そ、そんなことは一言も言ってないであります!ちょ、ちょっとだけ……個人的な話でありますが、満月は好きじゃ無いのであります……」
「満月が好きじゃ無いって……なんでだよ?」
「……み、見てると吸い込まれてしまいそうだからであります。じ、自分が呼ばれているような気がして……こ、この世では無い世界に連れ去られそうな気分になるのであります……」
正直に自分の考えを話した後、紬はランタンの方をジッと見つめた。
そうなんだなと短く答えるランタンは、窓の側にあるソファに腰掛けて右膝の上に右肘を立てて、その上に顎を乗せてぼんやり月を眺めている。
(……何故でありましょうか?ランタンの顔が寂しそうというか切なそうに見えるのは。カボチャ頭でよく見えないのに……ランタンがどう感じているかが、自分の胸に直接伝わってくる気がするのであります……)
「……ラ、ランタン」
気付けば、紬は無意識の内に彼の上着の裾を両手の人差し指と親指でギュッと掴んでいた。
何だよ、とランタンは僅かにカボチャ頭を紬に向ける。
「あっ……へ、変な話をしたから、ランタンがなんだか月に帰るかぐや姫のように見えてしまっただけであります!た、ただ、それだけなのであります……」
「……変な奴だな、紬って。ちょっと前まで、今日会ったばかりの俺のことを全力で追い出そうとしてたくせに……今となっては行かないで欲しい、ってか?」
「そ、そうでありますね……じ、自分は変な奴かもしれないのであります……」
「……ありがとな、俺に居場所をくれて」
「えっ?な、何か言ったのでありますか?」
ランタンのお礼の言葉が聞こえなかったらしく、紬は彼に訊き返したのだが
「……何でも無いよ。今日はもう休みな、紬。俺は悪霊が襲って来ないように、ここで見張りをしておくからさ」
そう彼女を安心させるように言うと、再び窓の外に視線を戻した。
紬は不思議そうに首を捻りつつも、勉強してから寝るのでありますと彼に答えて机に向かったのだった……。
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