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『そんな所で一人で遊んでいる場合じゃないのよ!今、うちに病院から電話が掛かってきたの……幼馴染の千夜ちゃんのお母さんから。千夜ちゃんが……あなたに会いたがってるって。今すぐ病院に来るように言ってもらえますかって……』
「えっ?千夜ちゃんなら……ついさっき、会って来たよ。顔色は悪かったけど……元気になってるって言ってたよ」
『……とにかく行って、沙羅。私も詳しいことは聞いてないけど、千夜ちゃんのお母さん……泣いていたわ。千夜ちゃんの体に何かあったのかもしれないの』
「……っ、わかった」
母親からの電話を切ると、沙羅は脇目も振らず来た道を駆け戻る。
「ふえあっ!?お、置いて行かないで欲しいのであります、サラエア!」
置いてけぼりを食らった紬も、ミストの浮遊力を使って猛スピードで彼を追いかけた。
病院に着くと、沙羅は受付で自分の名前を名乗り、ナースの許可を得て千夜の病室に向かう。
彼女の病室は面会規制の紙が貼られていたが、沙羅の姿を見た千夜の母親らしき女性は、泣きながら彼を病院の中へ入れてくれた。
「千夜……ちゃん」
「そ、そんな……す、少し前まで元気だったはずでありますのに!」
病室のベッドの上に横たわる千夜は、少し前に沙羅と紬が見た彼女とは全く様子が違っている。
体には何本ものチューブが繋がれ、口は酸素マスクで覆われ、ベッド横のモニターはひっきりなしにアラーム音を立てていた。
「なんで……」
沙羅はフラフラと覚束ない足取りで千夜のベッドに近付くと、彼女の左手を自分の両手でぎゅっと包む。
けれども、千夜は目を閉じて微かな呼吸音を立てるだけで全く反応を見せなかった。
「どうして……千夜ちゃん?さっき……話したばっかりなのに……」
「ううっ……沙羅ちゃん。あなたが出て行ってすぐ……ひくっ……千夜の容態が急変して……っ……わ、私も慌てて来たの……」
「寝耳に水、とはこのことだね……僕も会社を早退して来たけれど、もうこの状態だった……」
千夜の母親に続いて、父親らしき男性が目元を涙で濡らしながら打ち明ける。
嘘だ……と沙羅はガクンと床に膝をついた。
「だって……だって、さっきまで……僕と話していて……元気で……」
「ひぐっ……そ、そうでありますよ!こ、こんなの……こんなの、あんまりであります……」
ツーッと静かに涙を流す沙羅の後ろで、紬はえぐえぐっと嗚咽している。
ポタと沙羅の涙が千夜の手の甲に落ちた時
「沙羅……ちゃん……」
「……っ、千夜……ちゃん?」
千夜の口が微かに動いて、沙羅の名を呼んだ。
弱々しく自分に微笑みかけてきた千夜に、沙羅は身を乗り出して彼女の顔を見返す。
「戻って……来て……くれたね……。嬉しいよ……沙羅……ちゃん……」
「千夜ちゃん!どうして……」
「ごめん……ね、沙羅……ちゃん。本当は……体の具合……すごく悪く……なってたの。長くないって……話……本当だったのに……嘘吐いて……」
「うっ……ううん、僕も……ごめん、千夜ちゃん。僕も……来週、引っ越すこと……黙ってて」
「そっか……沙羅ちゃん……この町から……居なくなる……んだね……。だから……かな……私の体……わかってたのかも……。沙羅ちゃんに……置いて行かれたくないから……反対に……置いて行っちゃう……のかな……」
ポツポツと語る千夜の瞳から流れた涙はツーッと彼女の頰を伝った。
嫌だよ、と沙羅は彼にしては珍しく声を荒げる。
「僕……千夜ちゃんと……っく……お別れしたく無かった……。さよなら……言いたく無くて……っう……」
「私も……ひくっ……嫌だよ……沙羅ちゃん。さよなら……言いたく無い……だから………うっ……ありがとう、沙羅ちゃん。大好き……」
「僕も……ひくっ……僕も大好きだよ……千夜ちゃん……」
涙でくしゃくしゃの顔で素直な気持ちを打ち明け合う二人に、紬はもちろんだが千夜の母親は父親の胸に顔を埋めて泣きじゃくっていた。
「嬉しい……。縁結び……成功したよ……。最期の……私の……縁結び……一番………大事な………沙羅ちゃんとの……………」
「千夜……ちゃん?」
ピーッと耳に障るような高いノイズ音が鳴り響く。
その音がモニターがゼロになっている音だと沙羅が気付いたのは、バタバタとナースやドクターが駆けてきて千夜の体をあちこち触り始めてからだった。
「千夜ちゃんが……死んだ?嘘……こんなの……嘘だよ……夢だよ……ね?」
「ひぐっ……サラエア……」
「そう……だよね、縁結びの神様……これは夢……なんだよね?僕は……千夜ちゃんは……」
呆然と立ち尽くして問いかける沙羅に、紬が泣きながら答えあぐねていると場面がフッとまた切り替わる。
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