DAY1:ジャック・オ・ランタン

3/8
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/461ページ
それどころか 「じ、自分は……自分は今、感動しているであります!!こ、こんな……こんなラノベかアニメの世界でしか体験できないようなことが、自分の身に起きるなんて!!か、神様、スケルトン様!き、貴重な体験をありがとうであります!!」 彼女の声は嬉々としており、表情もパァッと輝いていた。 まるで女神か願いを叶えてくれる魔神にでも会ったかのような……全くその場の雰囲気に似合わない素敵な笑顔を浮かべる紬だが、骸骨は無機質な顔で振り上げた剣を一気に振り下ろす。 「……はれっ?」 スローモーションのようにゆっくりと自分の顔に向けて振り下ろされる剣先を、紬はただぼうっと見上げていた。 あまりに唐突な出来事で避ける暇も時間も無く、紬は謎の骸骨の化け物によって命を奪われた……はずだったが。 「見つけたぞ……今夜の俺の獲物っ!」 「ひひゃあ!?」 鋭く尖った剣先が額に触れる直前のところで、彼女の姿はその場から一瞬にして消える。 正確には、謎の声の人物に両腕で正面から包まれてかっ攫われたのだ。 「"ひひゃあ"って……くくっ、年頃の女性の悲鳴じゃ無いな。いいぜ……面白いよ、あんた!」 「えっ?なっ……だ、誰なのでありますか、あなた!?」 自分をお姫様抱っこの体勢で抱き上げたまま、ストッと塀の上に降り立った人物を見上げて、紬は非難と驚きの入り混じった声で尋ねる。 その人物は声と背丈から考察するに、まだ青年と呼べる歳に見える男性だった。 深緑色のベレー帽に白いシャツに黒いスラックス、黒いマフラーに赤いロングコート、と独特な服装も目立つが、何より紬が気になったのは彼の顔部分である。 カクカクと縦に凸凹で笑った顔にくり抜かれた巨大なカボチャ……彼はそれを頭に被っていたのだ。 「お、面白いって……しょ、初対面なのに失礼でありますよ、あなた!そ、それに、何なのでありますか、そのカボチャ頭は!?あ、あなたもハロウィンの仮装をしているのでありますか!?」 「"ハロウィンの仮装"……か。まあ、人間の感覚からすればその反応は間違っては無いよな。だけど、非難する前に言うことがあるんじゃないのか?」 カボチャ頭の人物にズイッと顔を近付けられ、はえっと紬は素っ頓狂な声を上げて顔を逸らす。 (ち、近いのであります……。体格からして、この方は男性……それも自分とそこまでは歳が変わらない年頃の青年のようであります!声の感じからからしてかなりのイケメン……じ、自分は今、三次元のイケメンに抱き上げられているのでありますか!?) 「あ、あうう……か、勘違いしないで欲しいのであります!じ、自分は……べ、別に緊張もドキドキもしてないであります!は、早く自分を降ろすのであります、このスケベカボチャ男!」 スケベカボチャって……とカボチャ頭の青年は肩を竦めながらも、塀から地面に飛び降りて紬の要望通りに彼女を足からそっと優しく地面に降ろした。 「カボチャはまあ事実だからいいとして……スケベは無いだろ?恩人に対して、その言い草はどうかと思うけどな……」 「ス、スケベはスケベであります!も、もう二度と、このようなことはごめんであります!じ、自分には心に決めたダーリンが居るのでありまして!ほ、他の男性に触れ合いを許すわけには……」 「……っ!しゃがめ!!」 「ふえっ?……ひゃい!?」 あたふたしながら意見を述べている途中で、紬はカボチャ頭の青年に右手で頭を押さえられ、強制的にしゃがまされる。 何をするのでありますかと非難しようとした彼女の頭上を、ブンッと音を立てて錆びた剣の刃先が前髪をかすめ、はらりと数本の髪の毛が地面に落ちた。 これにはさすがの紬の顔からもサーッと血の気が引く。 (げ、現実なのでありますか……?じ、自分は今、命の危機にさらされていて……カ、カボチャ頭の男の人に守られていて……) 「この距離は分が悪いな……一旦、退がるぞ。こっちだ!」 「はわわわっ!?」 脳内で状況を整理する暇(いとま)も無く、紬はカボチャ頭の青年に左手を掴まれて後方へと引きずられた。 スケルトンもまた、逃がさないというように二人を追って駆けて来る。 「ど、どこまで行くのでありますか!?あ、あの骸骨……つ、ついて来てるのでありますよ!?」 「安全なところまで……って言いたいところだけど、あいつらが作り出したこの空間からは逃げる事はできないんだ。あいつらを倒す以外にはな!」 「た、倒すって……」 「倒すのは簡単なんだけどさ……あんたを隠す場所を探してるんだ!チッ……なかなか見つからねえな」 苛立ってきているのか、後方を時折省みながら駆けるカボチャ頭の青年の口調は荒くなっていた。 「か、隠れる場所……でありますか?そ、それなら……」 「……っ!?どこに行くんだよ!?」 不意に自分の手を振り払って一人で駆け出した紬に、カボチャ頭の青年は焦ったような声を上げて彼女を追いかける。 しかし、どうやって彼の目をすり抜けたのか、紬の姿は瞬く間に彼の視界から消えていた。 「お、おいっ!くそっ、もう追いついてきやがったな……骨だけだから身軽でスリムで羨ましい限りだぜ」 カボチャ頭の青年は、自分のすぐ真後ろまで迫ってきたスケルトンの方を振り向いて皮肉を言う。 スケルトンは彼に対して特に何も言葉を返さなかった。 代わりというように、錆びた剣を胸の前に構えている。
/461ページ

最初のコメントを投稿しよう!