DAY1:ジャック・オ・ランタン

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(こんな怪しげなカボチャ頭と一ヶ月も一緒に過ごすなんて……本来ならばお断りなのであります。自分はお化けは全く怖くないのでありますから……でも。まだこのカボチャ頭には訊きたいことがいろいろあるのであります。それはきっと……今追い出したら、一生訊けなくてモヤモヤしてしまう気がするのであります……) 「……それで?どうするんだ?あんたが嫌だって言うなら無理にとは言わないけど……悪霊に対しては鉄壁でイケメンの俺がボディーガードになるっていうのは、紬にとっても悪い話じゃないと思うけど?」 返事を急かすように問いかけてくるジャック・オ・ランタンに対し、わかったのでありますと紬は賛成の意を示すように頷く。 「あ、あなたはスケベで何考えているのかわからなくて、無茶苦茶な存在でありますが……自分はもっと知りたいのであります。あ、あなたのこと……それから今、何が起きているのかということ。オ、オカルト好きとしては、悪霊とか神とかそういう話には興味津々なのであります!」 「……スケベは余計だけど、一応俺の話を信じてくれたみたいだな。じゃあ、これからは相棒としてよろしく頼むぜ、紬?あんたの悪霊レーダーぶり……期待してるから!」 「あ、悪霊レーダー!?や、やっぱり今からでも追い出そうかと考えてしまうのであります!」 ムウと頰を膨らませて言う紬に、怒らない怒らないとジャック・オ・ランタンは呑気な口調で彼女を宥めた。 「ああ、そうだ。"ジャック・オ・ランタン"って長い呼び方だから、これからは俺のことは"ランタン"って呼んでくれるか?」 「ラ、ランタン……でありますか?し、しかしながら、普通ならば"ジャック"の方が名前のような気がするのでありますけど……」 「……ラーンタン!ジャックって呼ばれ方は好きじゃないんだよ。あのあだ名を思い出すし……そもそも俺の名前じゃなくて、ハロウィンの悪霊の名前だからな。ランタンって呼ぶこと!それだけは何と言われても譲れねえな!」 「あ、あのあだ名?む、昔、何か名前でからかわれたことがあるのでありますか?」 「とにかく!ランタン呼び以外は許可しないし、ジャックって呼んでも反応しないからな!」 「うっ……わ、わがままでありますなー」 ランタンの剣幕にたじろいだ紬は、渋々といった表情で了承した後、アッと何かを思い出したように声を上げる。 「んっ?どうかしたのか、紬?」 「ど、どうかするのでありますよ!ラ、ランタンのこと……母上や父上には何と説明したら良いのでありますか!?そ、そこはご都合主義で自分以外には見えないという設定でありますよね!?」 「いや、だから設定って……はあ。紬以外には見えないようにすることももちろんできるけどさ。ただ、それには霊力をけっこう使う上に持続的に消費することになるから、あんまり使いたくない手だな。悪霊と戦う時、不利になる恐れがあるから」 右手人差し指で首の後ろを書きながら正直な意見を述べるランタンに、えーっと紬は非難するような声を上げた。 「だ、だったら、どうするというのでありますか!?じ、自分は許しても、母上や父上や大学の同級生達も変に思うのでありますよ!?カ、カボチャ頭を被った不法侵入の男性なんて……弁解するのが無理であります!」 「そこはまあ、上手くやるから問題無いよ。あっ、丁度良いタイミングで……ほら」 「紬ー!自分の洗濯物は自分で持って上がりなさいって何回言えばわかって……ってあら?」 噂をすれば何とやら……紬の部屋のドアが開けられたかと思うと、ドアの向こうには洗濯物を小脇に抱えた彼女の母親の姿があったのである。 (この人が紬の母親、か。よく似てるな……今はオタクで色気の欠片も無い紬も、いずれはこんな美人になるってことか?) 母親と紬の顔を見比べて、ふーんと意味ありげに息を吐いたランタンに、何でありますかと紬は彼に鋭い視線を向けた。 「……別にー。それよりいいのかよ、この状況を説明をしなくても?」 「あっ!?そ、そうだったのであります!!は、母上!こ、これはその……か、彼はランタンはあの……」 あたふたとランタンのことを説明しようとした紬だが、母親は驚くことも悲鳴を上げることも無く、はああと何故か呆れたような顔をしてため息をつく。 「蘭太(らんた)……また、紬の部屋に入り浸っているのね?いくら双子とはいっても、紬も年頃なんだからそこのところを気にしてあげなさい。あなたが紬のことを可愛くて仕方無いのはわかるけど……兄妹で恋愛とか結婚はダメよ?」 「ふええっ!?ら、蘭太って……ふ、双子の兄って!?は、母上、何を言って……むぐっ!?」 「あははっ!ごめんね、母さん?だけど、兄としては妹に悪い虫が付かないか心配してるわけで……そのことについて紬と話していたところなんだ」 「むむーっ!!」 紬は何か言いたげにバタついていたが、ランタンの右手で口を塞がれているために彼女の声は言葉としては発せられなかった。
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