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「赤ちゃんが生まれたんだ。だからみんなボクのことどうでもよくなっちゃったんだ…」
ボクがそう言ったら、お姉ちゃんは悲しそうな顔になった。
「それでお腹グルグルしてきたんだ?」
「そうなんだ。ボク、どうしたらいいの?」
「今もグルグルしてる?」
「大きくなったり小っちゃくなったりしてるよ」
「もっと大きくなる前に何とかしなくちゃね…」
お姉ちゃんは片手で自分の顎をつまみながら言った。
アニメに出てくる名探偵みたいで、かっこいいや。
「お姉ちゃん、すごいね。子供なのに、大人みたい!」
「アンタだって子供のくせに一人前に家出なんかしてきたんでしょ」
お姉ちゃんに言い返されて、ボクはちょっとムッとした。
「だってみんなボクの誕生日を忘れてるんだもん!」
「勘違いなんじゃないの?」
「そんなことないもん!明日なのに、誰もなんにも準備とかしてないんだ。いつもなら何日も前からお部屋にいっぱい風船飾ったりしてるのに…」
「まあ、生まれたての赤ちゃんがいたら、いつもできてたこともできなくなっちゃうかもね」
「でも、いつもお祝いしてくれてたんだ!ママが駅前のケーキ屋さんでチョコレートケーキ予約してくれて、お祖母ちゃんがボクの大好きな唐揚げを作って持って来てくれるんだ。ボク、プレゼントがなくても、みんながいつもみたいにお祝いしてくれたらそれでいいのに…」
「プレゼントいらないの?」
「…そりゃ、あったら嬉しいけどさ」
お姉ちゃんはボクの返事にプッて吹き出したよ。
「正直だね。ねえ、アンタの誕生…アンタ名前何だっけ?」
「翼だよ」
「じゃあ翼君。翼君の誕生日は明日なんでしょ?だったら、まだみんなが翼君の誕生日を忘れたとは限らないじゃない。もしかしたら翼君の知らないところで準備してるかもしれないし、明日一日でパッと準備しちゃうかも。ほら、赤ちゃんがいると色々といつも通りにいかないことも多いから。だから、とりあえず明日が終わるまでは待ってみたら?」
お姉ちゃんは大人みたいな言い方をしてきた。
「本当?本当にそう思う?」
「うん。だっていくらなんでも自分の子供の誕生日を忘れたりなんかしないでしょ」
「そうかなぁ?みんな赤ちゃんに夢中なんだよ?」
「じゃあこうしよう。これから一緒に翼君の家に行って、もし本当に翼君の誕生日を忘れてそうだなと思ったら、私が何とかしてあげるよ」
「お姉ちゃんが?どうやって?」
「それは秘密。だからほら、お家帰ろう?」
子供が家出なんてするもんじゃないよ。
お姉ちゃんは笑って言った。
でもボクは、ちょっとだけ、お姉ちゃんのことをおかしいなって思ったんだ。
「ねえ、お姉ちゃんは、人間だよね?」
ボクの質問に、お姉ちゃんは笑うのをやめた。
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