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形見分け
友人が突然、事故で亡くなった。
社会人になってからできた貴重な友人だった。
「理恵ちゃんの服かわいい」
彼女はいつも私をほめてくれた。
そして、その服はどこのブランドか、いくらしたのか、どこで買ったのか、根掘り葉掘り聞き出した。
最後に必ず「いいなぁ」とうらやましがった。
彼女は私に憧れているようだった。
葬儀が終わり、形見分けがあるというので次の日彼女の実家に出向いた。
彼女の家に行くのは初めてだ。
お母さんに案内され、彼女の部屋に入った途端に錯覚を起こした。
そこは、私の部屋だった。
正確には、私の部屋とうりふたつ。
壁紙から家具、窓の位置までそっくりで、
洋服、アクセサリー、バッグ、時計、CDや本、ペン一本に至るまで、すべての持ち物が私が持っているものと同じだった。
たったひとつ違っていたものがある。
デスクの上に花柄の日記帳があった。
「理恵さんにもらってほしいの。あなたのことばかり書いてあるのよ」
お母さんは、日記帳を私に差し出した。
私は、その日記帳だけもらって帰った。
読むのが怖い。
彼女は私の家に来たことはない。
どうしてあんなにそっくりに再現できたのか。
そして、どうしてそんなことをしたのか。
そんなことをしていた彼女が日記にどんなことを書いているのか。
震える指でページをめくった。
日記には、私と行った場所、食べたもの、話した内容が書かれていた。
そして、私が彼女に憧れている、私が彼女の持ち物をまねする、そんな理恵ちゃんがかわいいということが延々と書かれていた。
ページが進むにつれ、この日記に書いてあることが真実なのではないかと思えてきた。
ダメ! 彼女の文字に脳が支配されている。
日記帳を閉じ、立ち上がって深呼吸をした。
ふと、周りを見渡すと自分がどこにいるのか分からなくなった。
さっきと同じ光景。
ここは私の部屋なの? 彼女の部屋なの?
カーテンを開け、景色を見て、ここが自分の家であることを確認し安堵した。
窓を開けたら、風でデスクの上の日記帳がパラパラとめくれた。
亡くなる前日、最後のページにはこう書かれていた。
『あなたは私と同じ運命を生きるのよ』
私はその日記帳を燃やし、部屋中のものをすべて捨てた。
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