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「君は今、どこにいるんだろう」
僕はその持ち主に思いを馳せる。
視線の先には、ラピスラズリの輝きを放つ鱗が残っていた。
辿り着いたクラーロというその村は、透明な川に沿って木造の家々が並び立つ素敵な外観だった。そのまま飲むことができるほどの清らかな水のおかげで、観光村として人気があるようだ。特産物はマス。風を嗅いでみると、川のしっとりした香りが流れてきた。心が清々しくなる気持ちのいい村だ。
何にせよ、水が飲み放題というのはありがたい。この村の存在を知った僕は心を弾ませてここまで歩き続けてきたのだが……。
「あの、宿を探しているのですが」
「……よそ者かい」
何だか、あまり歓迎されていないみたいだ。
近くを通りがかった人に尋ねてみても、ろくに相手をしてもらえない。
「ん」
やや肩身の狭い思いをしながら村を歩いていると、白と紅の衣服を着た少女を発見する。彼女の何が目を引いたのかというと、右膝から血を流していたのだ。
「やあ、転んだのかな? ちょっと見せてごらん」
「え、う、うん」
困惑する少女をよそに、僕は数種の薬草と植物油をすり混ぜて作った薬を塗る。殺菌と痛み止め、止血効果があるのだ。そこに別の植物の葉を貼り、細い蔓で縛って固定する。
「はい。これで大丈夫」
「……ありがとう! この辺りじゃ金髪は珍しい。お兄さんは観光?」
「観光というよりは宿を探しにきた、かな。僕はエンケ。旅人だよ」
そう伝えると、何故か少女はにんまりと笑った。
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