孤独の欠片

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 彼女は少し悲しそうな目をして、丁寧に説明してくれる。  この村には、虹色の鱗を持つ龍の言い伝えがあった。現在は信じている者はいないようだが、シアの祖母は真剣に信仰していたらしい。  さて、事件のきっかけは一月前。村のあちこちで伝承の龍のものと思われる、虹色の鱗が目撃されるようになった。それは幸運を呼び寄せるとされ、その噂を聞きつけた商人たちがこぞってこの村を訪れるようになった。  彼らのおかげで村の財政は潤ったように思われたが、彼らはお宝に夢中になるあまり、自然を破壊するようになった。川の中に多くの鱗が流されて隠れていることを知ると、村人にとって何よりも大切な川をかき回して水を濁らせた。それがクラーロの人々の逆鱗に触れた。  一週間で村に散らばっていた鱗は取り尽くされてしまった。儲け話がなくなると、商人たちは手のひらを返すように去っていった。村人たちはそのせいで、よそ者に対して敵意を抱いてしまっているということだ。 「なるほどね。鱗ってこれのことかな?」 「え、どこで見つけたの!?」  ポーチから鱗を取り出すと、彼女は勢いよく身を乗り出す。びっくりしながら村のすぐ近くで見つけたよと答えると、彼女は首を捻った。 「もう鱗は取り尽くされたはずだけど」 「割と目立つところに落ちてあったよ」 「やっぱりまだこの村にいるんだよ!」  人々はあの事件があってから龍を疎むようになった。伝承の龍などもはや疫病神。あの鱗は争いを呼ぶ。ようやく川も元通りになろうとしているのだから、もう関わろうとしてはいけない。そんな風潮ができて龍を探しづらいらしい。 「僕もそれとなく探してみるよ」 「本当!? やったぁ!」  そう言うと彼女は両手を握って喜んだ。  虹色の龍の伝承か。いい語り話になりそうだ。
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