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アイドルなんか嫌いだった。いつもニコニコと何を考えてるのか分かりやしない。
大人たちのエゴによって作られた、何かを伝えるためだけの代用品。どんな歌を歌おうが当人の意見は反映されていないし、どんな風に踊ろうが後ろにある操り糸には気付けない。
どんなことを伝えようが、伝え手によって浸透具合はまるで違う。伝えることに最も適した人たち。
そう思っていた。
いつもは笑い、たまに涙を見せて同情を誘う。まるで詐欺師のような手口の甘い誘惑にみんなが堕ちていく。
人間社会のように苦悩や絶望はあるだろうし、もがきながら努力しているのだから同じ人間なんだ。ただ生きてるだけの僕と、同じ人間。
どこが?
晴れた日と雨の日のように、全然違う。
僕が嫌いだったのはこんなにも違っていたからだ。
人はみな自分と正反対の人間を嫌う。対照的な人間を馬鹿にし、軽蔑しながら生きている。
それは、自分にないモノを持っている誰かに対する妬心。
「自分らしく生きろ」
そのフレーズが耳に届いた。
ふらっと立ち寄った電気屋のテレビ越しに目が合う。
「私を必要としてくれている誰かのために、私はこれからも生き続けます」
綺麗事だと思ったその言葉は今も消えない。
忘れたくても、忘れられたくても、その名前は消えない。記憶に刻まれてしまったのだから。
「陽って呼んで欲しいな」
明日も晴れそうだ。
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