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葬儀などすべてを終えて家に帰りついたとき、急に寂しさが込み上げてきて玄関で一人泣いた。それが両親の死後、初めて流した涙だった。
それから気付けば自分のベッドの上にいて、気付けば一か月が経過していた。
一か月もの間、飲まず食わずで生きていられる人間なんていない。でもなぜか僕は死ぬことができずにいた。ご飯を買って食べている形跡があったり、シャワーを浴びた形跡まで残っている。自分がそんなことをするはずがないのに。
窓の外から朝陽が差し込んでくる。
玄関のドアを開けて誰かが帰ってくくることを何度も期待した。でもすぐにその期待は薄れ、今ではこの静かな家で一人、最期を迎えることを夢見ている。
「昨日、雨降ったんだ……」
ふと窓の外ではアスファルトに残る水溜まりに陽の光が反射して輝いていた。わいわいと近くを通る子供たちの声も聞こえてくる。
『……い』
その声に混じって聞き覚えのある声が聞こえた気がした。
『おい』
気のせいなんかじゃない。はっきりとは聞こえないが、どこかで聞いたことのあるような声が頭の中に鳴り響いている。
『聞こえるか?』
は?
『まさかこっちにも出てくることができるとはな』
その声はテレパシーのように頭に鳴り響き続ける。
『テレパシーとはちょっと違うな』
そしてなぜか心の中で会話が成立している。とうとう自分の頭がおかしくなったんだと思った。そのどこかで聞いたことあるような声は、紛れもなく自分の声だったからだ。
『そりゃそうさ。俺もお前なんだからな』
君が、僕?
『そう』
違う状況だったなら驚いただろうが、今は受け入れるのに時間はかからなかった。食べた記憶もないのにその辺に散らかっている弁当やおにぎりのゴミ。シャワーを浴びた記憶もないのに綺麗なままの髪や体。
君が余計な事をしてるってことか。
『理解が早くて助かるよ』
やめてくれない?
『俺はお前のためにやってるんだ。感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いはないな』
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