晴れ

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***  目を開けると白い天井がそこにあった。 「……」  脳が働くことを放棄していて、動けという命令が来ないのか体も動きそうにない。最初に思ったことは「やっと死ねた」だった。 これからどうなるんだろう。  死後の世界なんて未知だ。これから何が起きるのか分からないけど、成り行きに身を任せようと再び目を瞑った時にその声は聞こえた。 「目が覚めたみたいだね」  左側から聞こえてきた声で目を開けると、知らない女性が椅子に座って僕の方を見ていた。優しい瞳に僕の視線が固定される。 「大丈夫?」  天国か地獄かへと誘う案内人のような、その綺麗な女性は妙なことを言った。 「看護師さん呼ぶね」  看護師さんなどと言う。まるで僕が病院にいるかのように。  え?  その後、やってきた看護師さんや医者の人たちによって軽く検査されたり、自分がどんな状況だったのかなどを説明された。その現実でここは死後の世界なんかじゃなく、ただの病院であることが分かった。極度の栄養失調で倒れていた僕は救急車で運ばれ、今に至るらしい。 「もう少し遅かったら手遅れになっていたかもしれません」  家を出ようとドアを開けた瞬間から後の記憶がない。きっとそれくらい限界だった。 「当分の間は入院してもらうことになりますが、親御さんに連絡できますか?」 「親は、いません」  僕の言葉に周りの人たちの目に動揺が映った。いきなり親はいないと言われれば誰だってその反応になるだろう。 「それじゃあ親戚の方とかは……?」 「いません」  僕の親戚はみんな遠くに住んでいて、葬儀などが終わるとすぐに家に帰っていった。両親とも一人っ子で親戚はもともと少なく、昔から親戚との関わりはほとんどなかった。誰も僕を引き取ろうとか、面倒事を引き受けようとしてくれる人なんていなかった。 「……」  どうしたものかと静まり返る病室。それはそうだろう。この世界は未成年一人じゃ何もできない。 「私が面倒見ますよ」  全く関係のない初対面の女性が信じられないことを言う。 「あなたは?」 「第一発見者です」 「は、はあ」  病室がさっきとは違う雰囲気で静まり返る。 「と、とりあえず分かりました。いろいろ説明しますのでこちらにどうぞ」  なぜか医者も関係ない女性に普通に説明しようとする。いいのか?家族でも親戚でもない人をそんな簡単に信用して。 「あ、あの」 「いいから君はゆっくり寝てなさい」  そう言って一人の看護師さんを残して出て行った。
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