6人が本棚に入れています
本棚に追加
上木雪月もそうだった。こんなにいい友達が近くにいるのに何を怯えることがある?
自分を犠牲にして誰かを救おうとする愚かな行為に苛立ちを覚えつつ、それがこいつなりの優しさなんだと理解した。そんな人柄のおかげでいい人が寄ってくるのだろうということも。
『出かけたきり、両親は帰ってこなくなった。私は両親に捨てられたの』
雲村夕は別に親に捨てられていたわけではなかった。少し考えれば分かることだが、まだ小学生だった雲村がそう思い込むのも無理はない。
『本当に馬鹿な人達だと思うわ』
そんなことはなかった。
子供である雲村に被害が及ばないように、自分たちから遠ざけただけ。借金取りに追われる悲惨な生活なんて送って欲しくなかったから。
雲村はもう気付いていたはずだ。
『じゃあ、そろそろ行くか』
「行くかって、どこに?」
『決まってるだろ?用事を済ませにさ』
何年かぶりに親と再会したとき、雲村は怒りはしなかった。
親は子供の幸せを一番に願うものだと、気付いていたはずだから。
「ありがとう」
雲村夕は言った。
「運がよかっただけだよ」
雲村夕の両親がすでに借金を払い終えていたことが幸運だった。
「本当にありがとう」
今度は雲村夕の両親が言った。きっと娘と会えるきっかけを作ってくれたことに感謝しているのだろう。俺も頑張った甲斐があったというものだ。
「じゃあね」
「待って。……あなたは?」
「あなたは?ごめんけど、質問の意味が分からないな」
雲村夕もきっといい人だ。
「いいえ、やっぱりやめとく」
「そう」
「本当に感謝してる。……元気でね」
最後の方は声が小さくてよく聞こえなかった。
雲村夕が転校したことには少し驚いたが、その方がいいと思った。ゼロからのスタートは大変だろうが、もう一人じゃない。
その方があいつは笑って生きていけるだろう。
最初のコメントを投稿しよう!