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「いやあ、雨が降らなくてよかったな」
「室内だから雨は別に関係ないでしょ」
「気分だよ気分。せっかくの最良の日だってのにどんより気分じゃ嫌だろ?」
「そういうものかなあ」
「そうだって。何今更クールぶってるんだよ。誘ったのお前だろー?」
「クールぶってないよ。僕だって緊張してるんだって」
「あはは!それこそ今更かよ」
どこまでも続く長蛇の列。普段の僕ならどんな理由でも並ぶはずはないけど、今はこの長蛇の列の一員だ。
「まさか曲にしか興味がない優雨も握手会行くまでにハマるとはなあ」
「ハマったてほどじゃ……」
「いいっていいって。今は一人にしか興味がなくてもすぐに……」
「次の方どうぞー」
いつの間にか僕たちの前には誰もいなかった。
「ほら、呼ばれたぞ?」
「でも……」
「いいから行けって。中で待ってるぞ?」
「……うん」
最後に会った日からどのくらい経っただろう。
たった一言でみんなの心を取り戻してしまうくらいだ、ファンの人には信頼されてるんだな。やっぱり人の繋がりはそう簡単に切れるモノじゃない。
「は、初めまして」
変わらない笑顔が僕を迎えてくれた。
それに反してとんだ嘘つきだ。よくもまあ今までずっと笑いながら嘘をつけたものだ。事情があるとはいえ、呆れてしまう。
あってるのは漢字だけじゃないか。
「初めまして!神崎陽です」
いつも変わらない温かい声だ。陽の光のように。
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