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第4夜 ハッピーバースデー
「吉田君」
改めて、吉田君と視線を合わせる。
「ありがとう」
「いや、そんな。俺、いつも佐藤さんにリードしてもらってるし。誕生日くらいは俺がって思ったんだけど……無理」
吉田君が消え入るような声を残して、顔を両手で覆った。
「無理って何が?」
「なんか、格好悪いなって。驚かせるどころか、友達に手伝ってもらってるとこ見せちゃったし、本当、俺っていつも……」
「じゃあ、おあいこだね」
前言撤回。吉田君がここまで恥ずかしい気持ちをさらけ出してくれたのに、私だけ良い顔しているわけにいかない。
「私も、格好悪いところ見せちゃったから」
「え?」
「てっきり、吉田君が浮気してるんだと思って、後つけちゃった」
「え、えぇ!? 俺、そんな風に見えたのっ?」
案の定、浮気を疑われているとは微塵も思っていなかったらしい。あぁもう、なんでそんなに健気なのかなぁ!
「吉田君は見慣れてるのかもしれないけど、あの山岸君は完全に女の子だよ?」
「そっか……ごめん」
「いやいや、私の方がごめんだって。後つけるとかあり得ないでしょ」
「そうかもしれないけど……でも、そんだけ俺のこと想ってくれたのかなって思うと、嬉しいっていうか……」
「うん。だから、私も嬉しい」
「え?」
「吉田君が私のために、全力で格好悪いことをしてくれたから」
吉田君がテーブルに突っ伏した。彼にとっては黒歴史になるのかもしれない。
その様子もちょっと可愛いと思ってしまったのは、ここだけの話。
「……ごめん、忘れて」
「あはは、ムリムリ! だって嬉しいもん」
「そんなぁ」
「明日の誕生日デート」
私の一言で、吉田君の肩がピクリと動いた。顔を上げ、私を見つめてくる。
「楽しみにしてるよ」
「……うん。頑張る」
「あ、でも無理は禁物だよ?」
「無理は……しない。多分」
「もー何それー!」
少女漫画のような、キラキラとしたときめきに憧れていた頃もあった。
だけど今はただ、吉田君が愛おしくて堪らない。一生懸命で、恰好悪い彼が。
誕生日の前夜にもらったプレゼントで、私はまた一つ幸せになった。
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