485人が本棚に入れています
本棚に追加
13. 青い炎
週のなか日。3限目までしか取っている授業もなくバイトも休みのその日、でも朝から外はずっと雨で出かける気にもなれず、家でボーッと過ごしていた。
パイプベッドの頭の部分を背もたれにして足を投げ出し、携帯で漫画を読んでいる俺の脇でノートパソコンを開いて何か調べ物をしている後ろ姿。
ワンルームの俺の部屋、もう何の違和感もなくそこには春瑠がいた。
机の上には、帰省先で買ってきたこいつ曰くの地元銘菓がある。一応お土産として渡されたけど俺は食わねえから、結局春瑠が自分で食べていた。
今日も無造作に伸びた髪が項を隠していて、ホントに無頓着だなとその襟足を見つめていた時、ふとそれと対照的にちゃらちゃらと髪の色を変えるある一人の人物を思い出す。
俺の知らない春瑠の話をする後輩は、一見人懐っこそうに見える笑顔の裏に俺を挑発する棘を隠し持っているような顔をしていて、二人の関係が少し特別であることを暗に示していた。
――たぶん春瑠と乾は、ただの先輩後輩っていう距離じゃない。
「何見てんだ?」
おもむろにベッドから降りて春瑠の後ろに回り、背中越しに身を乗り出すようにして手元を覗き込んだ。
真剣にどこかのホームページを見ていたみたいで、一瞬反応の遅れた春瑠が驚いたように振り返り、ぱっと画面を検索サイトのトップページにもどす。
「なに? エロいサイトでも見てんの?」
「――っ、違うわ!」
「……あやしいなぁ」
俺が言ったことにちょっと怒った顔を見てニヤニヤ笑いながら、そのまま背後に座り春瑠の身体を挟むように両膝を立てて、その肩口に顎を乗せた。後ろから回した腕をこいつの腹の前で組むと、座ったまま後ろ抱きするような格好になった。
「……ちょ、……なにやってんの?」
パソコンのキーボードから手を離し再びこっちを振り返ろうと、腕の中の春瑠が少し身じろぎする。俺は構わず身体を密着させて、こいつの背中に体重をかけた。
「おも……っい、って」
逃げようともがくのをそうさせないように、回した腕に力を込めぎゅっと抱く。首筋に鼻先を寄せて息を吸い込むと、そこからはあの不快なタバコの香りではなく自分がよく知る春瑠の匂いがした。
少し強まった雨が窓を叩き、薄暗い部屋に雨音が響いている。人工的なものではない不規則で優しい音は、自分が川底にいるような気持ちにさせられる。そしてそれは、今自分が包みこんでいる存在から伝わる鼓動の音と重なり、俺の中の遠い記憶へと繋がっていく。
「……達也?」
静かな水の音。俺の名前を呼ぶ声――。
最初のコメントを投稿しよう!