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14. 火種をいだく
このまま梅雨入りするんじゃないかと思うほど、ここのところ雨が続いている。今朝も起きた時にはもう外から雨音が聞こえていた。
室内も屋外もジメジメと湿度が高く濡れた景色ばかりなのに、俺の中ではあの日発火した青白い炎がずっと消えずにゆらゆら揺らめいている気がする。
あの日、俺の名前を呼ぶ唇をその上ずったあえぎ声ごと自分の唇で塞ぎたいとせり上げてきた欲望を止めることはできず、気付けば激しく唇を奪っていた。
あの時全身を駆け巡った熱く煮えた感情はいったいなんなのか。
なぜあんなにも自分の名を呼ばせあいつを俺で満たさないと気が済まなかったのか。
未だ揺らめく炎は、その蓄積する澱を溶かすことができないでいる。
自分自身気持ちの落としどころが分からなくて、火種を抱いたままくすぶり続ける己の胸に向かって問いかける。
(俺は、あいつをどうしたいんだ……?)
共に限界を迎え思うままに男の精を吐き出した後もなお、口づけをほどかないままお互いの唇を求め合っていたこと。
――――身体はそれを鮮明に記憶していた。
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