みんな好きだよな?勇者。

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みんな好きだよな?勇者。

俺の名前は 黒田 正一(くろだ しょういち) 今年で25歳になる…はずだったのだが。 「おいおいおいおい!どこだよここ!?」 俺は今、真っ白な雲の上で椅子に座っている…。 (あれ?おかしいぞ、何で俺こんなとこに?あれ?俺なにしてたんだっけ?ヤベぇ、全然思い出せん!!) 俺がパニックになってキョロキョロしてると、突然空から爺さんが降りて来た。 「は?えっ?なんだ!?誰だ!?」 爺さんは俺が座っている数歩先に着地すると、いつの間にか椅子が現れ、腰をかけてから答えた。 「ご苦労じゃったなぁ。ワシは君らが言う神様じゃよ。」 長い髭を触りながら、さぞ当たり前のように神を名乗るじいさんに、俺は困惑した。 「は?え?なんで神様が?」 すると爺さんは、笑いながら言った。 「まぁ、ここに来たばかりじゃし、無理も無いだろう。よいかな?君はもう…死んだんじゃよ。」 俺は耳を疑った。 「俺が?死んだだって?」 爺さんは頷いた。 「……。」 俺は頭が真っ白になり、爺さんの顔を見たまま固まった。 しばらく固まっていると、見かねた爺さんが声をかけた。 「まぁ、パニックで覚えてないのも仕方ないじゃろうが、まずは冷静に思い出してみなさい。」 そう言われて俺は、少しずつだが、なんとなく思い出して来た。 (…そうだ。) 「確か俺は、仕事が終わって駅に向かって…」 爺さんは頷いた。 「それで、久しぶりに家に帰れると思ったらちょうど電車が来て…ってあれ?そこから思い出せない…。」 俺が頭を抱えて俯いていると、爺さんがその後を説明してくれた。 「そうじゃ、君はその電車が来た時、ホームで安心して眠っ…ゴホン!…いや、気を失ってしまったんじゃよ。」 (おい待て、今なんて?) 「あの、今眠ってって言いかけました?」 俺は顔を上げ、真っ直ぐ爺さんの目を見た。 すると爺さんは、ドキっとした顔をした後、気まずそうに顔を背けた…。 (おい…まさか嘘だよな?そんな死に方ってないよな!?) 「あ、あのそれって!俺は駅のホームでたったまま眠ってその電車に轢かれたって事ですか!?」 俺は思わず立ち上がった。 爺さんの横顔からは冷や汗が出ている。 (マジかよ…うわ!マジかよっ!アリなのかそれ…俺めちゃくちゃダサいじゃんかよ…。) 爺さんの反応からして死因は確定。 俺は何とも情けない自分の死に様に、力が抜けて椅子に腰を下ろした。 「マジかよ…。えっ?じゃあここは天国か何かで、爺さんは本当に…」 俺が俯いて落ち込んでいると、爺さんが慰めてくれた。 「だから言ったじゃろ?私は神じゃ。まぁ、そんなに落ち込むでない。どの道、君が早くに死ぬのは目に見えて分かっていたんじゃから…」 俺はゆっくりと顔を上げ、爺さんに質問した。 「えっと…それはどう言う…」 爺さんは、俺が死んだ原因について話してくれた。 「君の会社はいわゆるブラック企業じゃったな。休みもなく毎日働き、ろくな飯も食えなかったじゃろう…その上、君の上司や同僚は自分の仕事や失敗を君に押し付け、君に嘘までついて、毎日定時で帰っておった。」 俺の記憶が徐々に戻ってきた…。 (クソ…あいつらやっぱり俺はに嘘こいてたんだな。おかしいとは思ってたんだよホント…。) 色々と心当たりが出てきた俺は、呆れのような諦めのような漢字が沸き、鼻で笑ってしまった…。 「そして、部下は部下で君の事をよく『あれこそ社畜の鏡だ、だが絶対にあんな風にはなりたく無いよな…』と陰で話しておったな。」 (あーいーつーらあぁぁ!!何か失敗したら何でもかんでも頼って来たくせに!陰でそんなことを…てか部下のモノマネ美味いのが妙に腹立つ。) 「それでも君は、毎日毎日残業して、ほとんどを会社に泊まり、寝不足のままでろくな栄養も取れない。一方で、君に仕事を押し付けた上司や部下立ち上がりは、定時に上がり、皆で酒を飲んだり家のベットでスヤスヤ眠ったり、休みの日は家族や友人と出かけて遊んだりと、ごく平凡な生活を満喫しておったし…。」 (うん…。今すぐ生き返って全員殺っちまいたい) 頭のどこかの血管が切れる音がした気がした…。 「まぁ何はともあれ、君が睡眠不足や栄養不足、過労やストレスでいつか死ぬのは誰の目からしても明らかじゃった訳なのだ。」 俺は怒りと悔しさで一杯だった。 「あの、奴ら全員足の子指を角にぶつける呪いとかありませんか?俺の魂と引き換えでいいですか?なら今すぐ出しますのでお願いします。」 爺さんは、静かに首を横に振った。 「じゃあ、せめて上司の◯◯と部下の◯◯だけでもいいので、爆破か頭上に隕石を落として下さい魂差し出しますお願いします!!」 俺はそう言って頭を下げた…。 すると爺さんは、優しく声を掛けた。 「やめなさい。確かに上司の◯◯と部下の◯◯は君の恋敵じゃっただろうが、そもそもあの娘は君になど興味がなかったし、誰にでもYESで答える人がそもそも大嫌いだと同僚とよく話してたんじゃから。」 (あ、何だろう…こいつも物凄くやっちまいたくなってきたぞ?) 俺は、頭を上げて、神様を真顔で睨んだ。 「ど、どうしたんじゃそんな怖い顔をして…。」 爺さんは何故かうろたえている。 俺は、真顔のまま一言だけ言った。 「いえ、なんでも。」 爺さんは、気まずい顔をして咳払いをしてから話した。 「とにかくじゃ!君はもう死んどる、じゃが…人生の楽しさを知らずして天国に連れていくのも、正直言って可哀想じゃ、まぁ女の1人も経験できなかったみたいじゃしな。」 (よしやるかこいつ…。) 俺は、微笑みながら拳を握り、手首を回しながらストレッチをした…。 「ゴホン!ゴホン!」 俺の一連の行動を見たじじいは、慌てて咳払いをしてから話しを続けた。 「まぁまぁそこでじゃ、突然じゃが君は異世界に興味はないかね?」 (えっ?…異世界って、あの異世界?) 俺は拳を下ろして固まった…。 そして、異世界について考えた…。 (異世界って、あの勇者や魔法や剣とかの…。) 落ちついた俺を見て、じじいは安心し話を続けた。 「どうじゃ異世界、君も生前よくゲームやらアニメやらで見ていただろう?」 俺は、生前の記憶を思い出していた。 (確か、アニメにハマったのは就職してからだった。あまりにも過酷な環境で嫌気がさしていたとき、ふと休憩に触っていたpcの広告に、異世界系のアニメがあって、気分転換に見てみたらどっぷりとハマったんだっけ。それから少しの暇をみつけてはRPGゲームなんかしちゃったりしてたな…) 確かに俺は、勇者に対して憧れを持っていた。 いつかあんな世界に行けたらどれほど幸せだろうと思い、行く方法や勇者みたいになる方法を本気で考えた事もあったくらいだ。 だがしかし、所詮、それはただの叶わぬ夢や希望だったし。 どう頑張っても現実では勇者になれるはずもなく、どれだけ人に尽くしたところで、何一つのお礼や謝罪も帰ってこないただの社畜だったのだ。 じじいは言った。 「それにじゃ!もちろん、ゲームやアニメみたいに魔法も使えるし剣や槍、弓や杖などもあるぞ?どうじゃ?」 気づけば、俺の顔はニヤけていた。 (剣や魔法の世界!はっ、てことは獣人やモンスターなんかも…) 爺さんは俺のニヤけ顔に少し引き気味で話した。 「もちろん、獣人やエルフやドワーフ、君が想像してるであろうモンスターなども大抵おるじゃろうて。」 俺は、ハッと我に返り、前から憧れだった存在が居るかを爺さんに聞いた。 「じじい…あぁ、爺さん!いや、神様!!その異世界には勇者も存在しているのでございましょうか!?」 俺は両手を胸の前で組み、片膝をついて期待の眼差しを向けた。 「あ、あぁ…もちろんいるともさ。じゃが…」 「興味あります!!行きます異世界!!いえ!転生させて下さい異世界に!!よろしくお願いします神様!!!」 俺は勇者の存在を知った瞬間、全力で異世界転生を望み、何度も何度も頭を下げた。 「う、うむ!そこまで強く願うならよかろう!私が神として、君を異世界へと転生させよう!」 神様は自慢げな顔でそう言った。 俺は両膝を着き深く頭を下げた。 「ははぁー!!ありがたき幸せでございます!!」
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