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突然、スピーカーから男の人の声。
けれども、ブース内の全員は即座に窓のほうに向いた。座っていた者は起立もする。
そしてすかさず「おはようございます」が、6つ湧き起こる。
その挨拶の相手は、ガラスの向こうの部屋の中心にいる中年の男。
〈音響監督のシノダです〉
立派なチェアにかける彼は、手もとのボタンを押しながら、口もとのマイクに向かって話す。
トークバックは、スイッチが入っているときだけ、調整室内の音をブースに届ける。
〈みなさん、集合時間より前にお集まりいただきまして、ありがとうございます。3時になりましたので、予定どおりはじめていきたいと思います。
ただ今回、大所帯で変則的なスケジュールですから、4時からのメンツに早め早めにレクチャーしておきたいのもありまして、ガヤ録りは助手のフジサキくんに一任します。
あとは彼の指示に従ってください。よろしくおねがいします〉
「お願いします」
物腰やわらかで感じのいい声音に対し、6人はしっかりと返事した。当然、全員がガラスの奥に向けて頭を下げてもいる。
ただ、彼女たちがまた〝気をつけ〟の姿勢に戻るころには、調整室中央のまんまるポッコリは、ひょろ長のやせっぽちに替わっていた。
〈代わりましてフジサキです〉
声色も打って変わって、硬くて青い。
〈まずは全員着席して下さい〉
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