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〈では出入り口に近いペアから。マイクは高さが合っている物を使って下さい。あと立つ時にエアコン切って〉
話を切り上げるのも一方的。
扉のそばに座っていた2人は急いで立ち上がる。
彼女たちが空調のスイッチに悪戦苦闘するあいだ、モニターの映像が収録用の素材に切り変わり、くだんの場面が動きだした。
『ここはこういう情景だから』と、助手は補足している。
けれどこれはしょせん、『そろいのスカートかズボンかを履く無数の足が、隊列を組んで、桜舞い散る晴れた日の屋外と思しき場所を、左から右へと流れていくさまが大写しになっているだけの、音の無いアニメーションが、くり返しモニターに映し出された』
それ以上でも以下でもない。
カノジョはふたたび台本に目を落とすと、カットナンバー194の下の、ト書き――場面と行動の説明文――の段を見る。
入学式終わり、新入生男女
体育館から校舎への渡り廊下を歩く
それから、その下の台詞の段も。
(ガヤ)生徒達のおしゃべり
(SE)上履きの足音
そうしてようやく、このかっこ書きの符丁の横のひろい余白に、多色ペンの黒で、はっきり覚えていることをしたためる。
口パク合わせ不問
間合いだけ意識
1v1 1組ずつ
3組め、リーナと
〈では1組目、お願いします〉
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