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咄嗟に右を向く。そこには理亜とは違う雰囲気を持つ少女が拳を握りしめ、僕に敵意を見せていた。事情を全く知らない、通りすがりの生徒までもが廊下を引き戻し逃げていくレベルの怒り。彼女が怒る理由は分かっている。
クレーマーとして、彼女は僕を叱りに来たのだから。放送部員の僕に対するクレーマー。悲しいことに学校にはクレーマー対応マニュアルが用意されていない。あったとしても意味を成さないに決まっている。
だって、彼女、ナノカは史上最強のクレーマーなのだから。
彼女のきりっと締まった唇や激しく揺れ動く栗色のポニーテールがこちらに威圧感を与えてくる。緊張感で胸が一杯になりそうだ。
「ああ……ちょっと用事が」
逃げようと思うも、もう遅い。彼女は僕の右足を踏んで逃亡を不可にした。このまま力業で強引に事を行うのも無理だ。彼女に投げられるのがオチだろう。
「情真くん、逃げるなんて許さないわよ。アンタ、自分がしたこと、分かってんの?」
女子特有の高さを伴った恐ろしい声。思わず理亜に助けを求めようとするも、ニヤニヤ笑っているだけで「おーい、理亜」と呼び掛けても「まぁ、大丈夫だろ」の一言で済まされた。大丈夫でないから、救済を要求しているのだ。
理亜が頼りにならない今、できることは一つ。
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