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第1話
私を夢の世界から引き釣り出したのは、携帯電話のメロディだった。
仕事用にと皆に支給されたやつ。
パかっと開いて、映し出される画面を寝ぼけながら見つめた。
同僚の女の子からお呼び出しがかかっている。
「なにー? 今日は遅番だよ、寝るからさぁ」
私はまたベッドに潜りたい一心を言葉に乗せて、精一杯の抗議をした。
“おやすみなさい”、そう言おうとしながら壁に掛かっているカレンダーに視点を合わせていった。
視界が少しずつくっきりするように、私の頭は冷めてゆく。
あ、ちがう……。
何だか血の気が引いていくのを感じた。
「良かった、秋華 –あきか- 生きてたね」
早く来てよねー、と彼女はそう言って電話を切った。
今日は生存確認されてはじまった。
・・・
軽く結んだ髪を揺らしながら、私は小走りに歩く。
周りの景色も見ぬままに。
駅のロータリーにはすでに行列ができていた。
その最後尾に並んで、肩で息を整える。
あとはタクシーを待つだけだ、”もうすぐ乗るから”と同僚にメールを打った。
秋の爽やかな風が身体を冷やして、ようやく季節を感じさせた。
タクシーの窓の外からは、少し化粧ついたイチョウが見えた。
私はそれを目にして、思わず頬に手を添えた。
・・・
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