7人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
案の定。
これほど「案の定」という言葉がぴったりなことはあろうか。
花火大会でごった返す人たちはみんなして道行く相楽さんに目を奪われていた。
同時に移りゆく僕への視線。
その顔は一様に「え、あれが彼氏? ウソだろ?」と言っている。
ああ、すいません。
ほんと、すいません。
彼氏じゃないです、ただのクラスメイトですと胸を張って言いたいのだが(胸を張ることではないが)、小心者の僕は何も言えず、恐縮しながら後ろをついて歩いていた。
中には「ナンパ対策で連れてきてるだけだろ」とつぶやく声まで聞こえてくる。
ううう、穴があったら全力で入りたい……。
けれども相楽さんはそんな僕の気持ちなど気づきもせず、面白そうに立ち並ぶ屋台を眺めていた。
「ねえ西嶋くん。私、あれやりたい」
そう言って彼女が指差したのは――。
はい出ました、屋台名物金魚すくい。
はっきり言って、こんなにも浮きまくっている僕にはかなりハードルが高い。
いや、ハードルというかもう壁だ。コンクリートの壁。鉄筋が中に埋まってる、ものすごく硬いやつ。
これを乗り越えるなんて無理すぎる。
「ごめん。金魚すくいはちょっと苦手で……」
どうにか断ろうと思っていたら、相楽さんはさっさと金魚すくいのほうに向かって行って、いかついおっちゃんからポイを受け取っていた。
うおおおい! 人の話を聞けよ!
呆然とたたずむ僕に相楽さんが
「西嶋くん、はやくはやくー」
と手招きしている。
ああ、周りからの視線が痛い。
「ええ!? こんな奴があんな可愛い子と金魚すくい!? マジで許せねえ」
なんて声が聞こえてくる気がする。
僕は静かに相楽さんの隣に座ると、お金を払っていかついおっちゃんからポイを受け取った。
最初のコメントを投稿しよう!