1・未来のすがた

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1・未来のすがた

 琴音は無事に2次試験も終え、膳が言った通りに東京女子看護大学に合格した。これを膳は止めようとしていた。それが何を意味するのか琴音には想像が付かなかった。  発表された日には真理子と二人でささやかな合格祝いをした。返信は無いと分かっていても家族ラインにメッセージを入れておいた。 《お父さんが何より望んでいた大学の合格を勝ち取ることができました。ありがとうございました。返信をもらえないのが寂しいけど一応報告しておきます。早く帰って来てね》  学校は受験期間に入っているため、3年生は休みとなっている。この日はバレンタインデー。琴音は真理子との夕食前に、合格の報告を兼ねて膳にチョコレートを届けに行っていた。 「おめでとう。素直に美津井さんの努力とその成果を祝福するよ。お疲れ様でした」 「ありがとう。膳君、私からはこれ」  とお洒落にラッピングされたチョコを渡した。 「バレンタインかい?」 「そう」 「ありがとう。でも俺チョコは食べないよ」 「知ってるよ。開けてみて」  膳はそれを開けて目を丸くする。 「わぁ玉露 宇治茶・・・。これ高いでしょ~」 「ホントに高いクラスは目が出るほどだったよ。それは私でも手が届く値段だったの。要するに量が少ないってことなんだけどね」 「ありがとう。味わって頂くよ」 「来月のホワイトデーはお返ししないでね。前にお寿司をゴチになったから」 「来月・・・」  一瞬膳から表情が消えた。しかし直ぐに笑みを浮かべて返す。 「和牛ステーキを食べに行っていなかったね。それを奢るよ」 「いいよ、そんな高級なものは~」  しばらくは麻衣や他の仲間の進路や受験の状況など琴音の知っている情報を膳に伝えた。そして他愛のない話をしばらくしている時に膳はポツリと呟いた。 「美津井さん・・・明後日がその時だよ・・・」 「あ・・・そうだよね・・・」  和やかだった空気がピンと張り詰めた。もちろん琴音は覚えている。忘れるはずも無かった。膳は何を告白するのか、どこへ行こうというのか、何を見せようというのか、これは琴音にとってある種の試練なのか、直樹と会えるというのだろうか、暗雲漂う心情のまま、その時を待つのだった。
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