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午後7時に琴音の自宅近くのコンビニ前で待っていてくれと言われていた。琴音は紺のアディダスのウィンドブレーカー上下にウエストポーチで言われたまま膳を待っていた。
(タクシーで迎えに来るのかなぁ・・・)
しばらく待っていると白い乗用車が琴音の横に付いた。日産リーフ。挙動不審に戸惑う琴音側助手席のパワーウィンドウが下りた。
「美津井さん、乗って!」
「え? 膳君?!」
運転していたのは黒のスウェット上下に身を包んだ膳だった。訳も分からずその場の空気で隠れるように助手席に乗り込む琴音。慌ててシートベルトを固定する。
「膳君運転できるの?!」
「うん」
「これ膳君の車?!」
「違う。レンタカー」
「免許持っていたの?!」
「持っていない。車はパクった」
「・・・!!」
目を見開いて仰天する琴音。
「捕まるよ! 何してんの、膳君! 返しなよ!」
「大丈夫。手続きは踏んでいるから」
余裕の表情で淡々と答える膳をよく見ると、ハンドルに人差し指を1本乗せているだけだった。
「ちゃんとハンドル持ってよ! 危ないでしょ!」
「これEVカーだよ。自動だよ、自動」
「え? こんなスゴイの? 自動運転って・・・」
この時代でここまでの自動運転はできない。膳の能力による運転だった。車のAIとリンクしているのである。
「どこへ行くの?」
「ファインズ製薬葛西研究所・・・」
「そこだったのね、お父さんの居場所は」
「そう・・・」
「お父さんを助けてくれるのね、膳君。そのために色々と調べていてくれたんでしょ?」
「うーん・・・そんなところかな」
何とも煮え切らない返答をする膳に不満を感じる琴音だが、外資系の日本支社に高校生二人が侵入して一人の大人を救出するなど、普通に考えたらあり得ない。線の細い膳にそんな期待をする方が間違っていると琴音は考えを改めた。
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