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6本目のココア
「もう…… 競い合うのは明日の本番まで取っておいてよね。後輩たちの前で、何やってんだか」
鷹峯部長が口を開くと、白鷺副部長、清風先輩共々、視線を暗闇の中に逃がした。
「でも…… 涼とクロエを見てると、不思議と安心するわね」
感慨深げな部長。
「まったくだ。二人はまるで、私たちの精神安定剤みたいだな。いや、精神高揚剤かな」
笑いながら、剛堂先輩もそれに続く。
きっと、清風先輩も白鷺副部長も、明日で終わりだなんて微塵も思っていないんだ。
周囲の不安を吹き飛ばしてしまうような意志の強さが、この二人にはきっとあるんだ。
そんなことを考えていると……
なんだかアタシもアツくなってきた!
「部長、アタシも明日、やってやりますからね!」
アタシは熱のこもった視線を鷹峯部長に送った…… つもりだったのだが……
「もう、このおバカったら…… アンタはすぐ周りに影響されてアツくなるんだから。そういう視線は、私じゃなくって、誉にでも送ったら?」
「ちょっと! 感動的な場面が台無しじゃないですか! それに剛堂先輩は怖すぎますよ。ガンを飛ばしたみたいに思われたら、アタシ、殺されちゃいますから!」
「おいおい、相田。あんまりじゃないか」
豪快に笑う剛堂先輩。
ひとつ間を置き、フッ、と小さく息を吐く部長。そして——
「なんだかんだ言って、夏子も私たちにとっての精神安定剤みたいな物ね」
そう言って、部長は優しい微笑みを浮かべた。
それを聞いた白鷺副部長も、フゥー、と大きく息を吐き出して——
「あなたたち、みんなココアを飲んだんでしょ? 私だけ飲んでないなんて、なんだか悔しいわ」
そう言うと、副部長も微笑みながら自販機でホットココアを買い、ソファーの上に腰かけた。
「他の人の迷惑にならないよう、会話は小さな声でね」
いつもの温和な様子で、副部長はいたずらっぽく笑った。
「まったく、仕方のない副部長だな。じゃあ、1年生の2人のココア代は、3年生4人で割り勘にしようじゃないか」
そう言って、清風先輩もニッコリ笑った。
「それじゃあ白鷺。来て早々悪いんだが、私に60円渡してくれるか?」
「ちょっと誉! アンタも60円払うのよ! それはボケてるの? それとも天然なの?」
「もう、愛美はホント、お笑いに厳しいんだから、ふふっ」
白鷺副部長がまた笑った。
「あーあ、クロエのココアだけ売り切れだったらオチがついたのに」
残念そうな顔の部長。
「お生憎様。ふふっ」
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