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1年生部屋での出来事
「それじゃあみんな、電気消すよ。おやすみ」
そう言って、アタシは部屋の電気を消した。
ここは四国の香川県にある昔ながらの宿泊施設。
この部屋にはアタシを含めて6人の花も恥じらう…… かどうかは知らないけど、とにかく高校1年生の吹奏楽部女子が布団を並べて横になっている。
アタシの名前は相田夏子。友だちからはナツと呼ばれている。
アタシが所属する、愛媛県にある私立東松山熟田津南高校、通称東高吹奏楽部は、先日行われた全日本吹奏楽コンクール愛媛県大会において金賞を受賞し、加えて四国支部大会への出場権も獲得した。
明日、ここ香川県の演奏会場において、四国4県から選抜された16校と、全国大会出場をかけて音楽で競い合うのだ。
『勝負するのではなく競い合う』
これが我が部の基本的な考え方だ。
いずれにせよ、四国支部から全国大会に進めるのはたったの2校だけ。
みんなプレッシャーを感じていることだろう。
特に今回が最後のチャンスとなる3年生が、眠れぬ夜を迎えることがないよう祈るばかりだ。
そんなことを言いながら、実はアタシ自身もなかなか寝つけなくて困っていた。
季節はお盆が過ぎたとは言え、まだまだ残暑が厳しい8月後半。
どうやら眠れないのは緊張のためばかりではないようだ。
先輩たちから体調を崩さないよう『冷房はあまり入れ過ぎないように』と厳しく言われていたため、室内はあまり涼しくない。
こっそりクーラーの温度を下げてやろうか、そんなことを考えていたところ——
「ねえ、ナツさん」
アタシの隣で寝ている、武者小路篤子さんが小声で話しかけてきた。
武者小路さんは有名旧家出身のお嬢サマで、話し方がとてもエレガント? でいらっしゃる。
吹奏楽がやりたくてウチの高校に入学したみたいだけど、そうでもなけりゃあ、ガサツなアタシとは一生出会うことがないような超お嬢サマだ。
ただ、あまりにもお嬢サマ過ぎて、ちょっと浮世離れしたところもあるんだけど……
「……どうしたの、武者小路さん?」
「ナツさん…… 私、なんだか眠れそうにないんです……」
「暑いの? クーラーの温度下げようか?」
「いいえ。実は私…… こんなに大人数で、しかも布団で寝たことないんですの」
「え? 中学の時の修学旅行とかどうしてたの?」
「え? 普通にリゾートホテルの一人部屋に泊まって、ベッドで寝ましたけど?」
「……それ、たぶん修学旅行じゃないと思うよ」
「ちょっと! 私の修学旅行の思い出を冒涜するの、やめていただけるかしら!」
「うるさいよ!」
「寝られないよ!」
「羨ましいよ!」
最後の人が私の気持ちを代弁してくれたようだ。
修学旅行って言えば、大部屋で雑魚寝するものじゃないのか?
どんだけ高貴な中学に通ってたんだか。
なんてことを思っていたら——
アタシ目掛けて一斉に枕が飛んで来た……
ちょっと…… 大声出したの、武者小路さんだよ……
みんな明日の合奏を控えてピリピリしているようだ。
仕方ない。アタシは武者小路さんと一緒に、一旦、部屋から出ることにした。
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