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解決編 犯人
けぷ。と、翡翠ちゃんの満足そうなげっぷの音が聞こえた。
「まあ待たせたな。じゃあ犯人を教えよう。パパを見てみろ」
全く動かない父さんを、全員で見た。
「いつもの馬鹿面しか見えんが」
「そうかな?子供の頃からパパと暮らしてる私なら解る。要するにだな。よし!動くな流紫降!」
両目を青く光らせた碧ちゃんと、父さん僕達が僕を取り囲んだ。
「私に気付いたことなら流紫降だってとっくに気付いていた。パパの毒死事件が嘘っぱちだと解ると1番困るのは誰か。真帆の父親の義理の息子のお前だ。流紫降。これだけ騒ぎになって、それが人騒がせと解って激怒されるのは誰か。パパは勿論ママも屁とも思わない。王ってのは叱られないからだ。その場合、王子が代わりに怒られる。そうだろう?」
ぐうの音も出ないよ碧ちゃん。
「ごめんなさい。お義父さん。来てすぐに解った。父さんが緑色の汗を大量にかいている状況。落ちて割れた麦茶のボトル。ねえ母さん。お茶に何を入れたの?」
「そうですね。健康にいいと聞いて、ドクゼリにトリカブト、チョウセンアサガオにハシリドコロ、ドクニンジンが麦茶に煮込まれているはずです」
どこに出しても恥ずかしくない毒を盛った犯人がここにいた。
「普段、パパはあんまりキッチンに入らないんだ。三田村さんお茶。の一言で済むからだ。珍しく、パパはキッチンに入り、冷えた麦茶をらっぱ飲みってどこにでもある父親像だがな。どっこいママはどこにでもいない飛びっきりの毒蛇姫だった。だが、ママを心から愛してるパパは、死ぬと解って毒を飲んだ。石山さん。いるか?」
「小生はここにおります。姫様」
現れた勘解由小路家の御殿医、ペストマスクを着けた僕が石山さんだった。
「もうとっくに解毒されてるだろうが、とりあえず診てやってくれ」
「かしこまりました。おや?流石は猊下、全ての毒はハデスの力で無力化されておるでしょうな。されど、奥様がお手ずから作った食物は、どのようなものでも構わず、すべからく猊下を恐ろしい悪夢にぶべ」
母さんの蹴りで石山さんが吹っ飛んでいった。
「そうです。緑色の汗をかいて苦しむ坊っちゃまを見て参りました。下手人たるお茶テロを起こす奥様を成敗いたします。どうやったら麦茶を飲むと緑色の液体を分泌するのか。親の顔が見とうございます」
「小3の頃会った婆ちゃんは元気かな?出されても茶は飲まんでおこう」
母さんの所為で、お婆ちゃんまで毒製造機扱いされていた。
母さんは、全く動かなくなった父さんの頭を抱き、ポロポロ泣き出した。
「私専用の薬湯茶がまさかこんな。ああ降魔さん。愛しています。うう。ううううう」
とりあえず父さんは、おっぱいで窒息しそうだった。
「何てこたあない。三つ子ちゃんは大人が騒いでるんで泣いてただけだった訳だな」
その証拠に、母さんに纏わりついて三つ子ちゃん達は泣いていた。
勘解由小路の女達は、誰もが動かなくなった父親夫、母親を求めて泣いていた。
僕も貰い泣きしそうになっていた。
どれだけ下らない事件であっても、それは同じだった。
「どこまでしょうがないんだ。お前等は」
お義父さんはそう言って帰っていった。
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