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自分の家のが学校から近い。放課後に少しだけ寄り道をするのがデートの代わりだ。
「お邪魔します」
慣れた様子で部屋まであがる。荷物を置いて、飲み物を取りに二人揃ってキッチンへおりた。
「あれ、お母さんは」
「……いる」
いないといえば本気で迫られるかも。「ふうん」と信じたふりをしているけれど勘付いているだろう。今まで母がいないことなんてなかった。大体玄関か、出迎えがなくてもキッチンで紗佳と挨拶をしていたからだ。母の生活音がするから、どれだけ誘われたって現実を忘れなかった。なのに。なんでいないんだ。二人きりじゃないか。紗佳に目を向けると、難しい顔をして下げっぱなしだったハイソックスを膝まで引っ張っている。
「さやちゃん?」
「ほ、はえ?」
大丈夫か、と頭を撫でる。家に帰れば甘い雰囲気になるのはいつものことなのに焦っているようにみえた。もしかしたら同じ気持ちなのかもしれない。
それぞれグラスを持って部屋に戻り「おいで」と言えば真ん中めがけて飛び込んでくる。ぎゅうっと思いっきり抱きしめあう。たった一日なのに溜まったもどかしさを解消するように力を込める。
「た、いき。くるし……」
「ごめん、つい」
腕を緩めて乱れた髪を梳いた。
「さやちゃんて髪、さらさらだよね」
「気を遣ってるの。誰かさんが触るから」
にこっと見上げて笑う様子に胸の奥をくすぐられる。まずい。出しそうになった手をぎゅっと握り、床に座った。続いて紗佳も腰を下ろす。
「ねえ、次は?」
「……まだ」
ええ、と文句を垂れる紗佳を横目にグラスの麦茶をあおる。
「そうだ、この前チエ達と盛り上がったんだけどね。泰喜と試したくて」
「なに?」
「キス、なんだけど」
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