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人が必死に我慢しているのに。
「その、キスにも種類があるんだって」
ふうん、と相づちを打ってバレないように瞼を閉じる。
「あれ、どれだっけな。ちょっと待ってね」
だめだ、耐えられない。少しだけ麦茶を口に含む。
「これ――んっ」
画面に夢中になっていた紗佳の顎を下から片手で捉えて引き寄せる。胸に弱く叩きつけられる手も掴んで指を絡ませた。唇で唇を押し開き、とくとくと、温くなった麦茶を紗佳のなかに流し込む。ごくりと鳴った喉の音を確認してからそっと身体を離す。
「ん……飲んじゃった」
「ごめん、つい」
ついじゃないし、と唇の端から漏れた液体を拭う。
「メガネ汚れるんだけど」
じゃあ取れば、と外してやると素直に応じる。机に置きながら「で、なんだっけ」と聞くとはっとしたように首を振る。
「え、あ……なんでも、なんでもないっ」
どれ、とスマホを奪う。
「”もっと仲良くなれるキス20選?”」
「返して、やっぱりやめとく!」
ひょいひょい避けると同じ方向についてくる。なかなか取り返せない必死さがかわいい。
「返してほしい?」
腕を高く伸ばして、胸元に寄りかかってきた紗佳に尋ねる。思ったよりも密着してしまったことに赤面しているのだろうか。コクリと声もなく頷いた。
「じゃあどれが一番話題になったか教えて」
「えっと……」
サーチングキス、と言いながら後ずさりした。そのページを確認する。
「ここに座って」
膝の間に来るよう床をとんと叩く。
「な、なんで?」
「いいから」
渋々近寄ってきたところを脚と腕を使って包みこむ。
「へっ? ま、待って」
「待たない」
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